「時のしずく」について語る #1
もうすぐの10月13日から開催のSeikoSeed「からくりの森」で新作の「時のしずく」を展示します。
その新作について2回か3回にわけて語っていこうと思います。この1回目の記事をみても作品の映像とかないのでネタバレしません。むしろコンセプトとかわかるので、これ読んでから作品見たらより楽しめるかもしれません。
依頼がきた
2022年の12月に桐山さんから連絡をもらいました。「来年のからくりの森に協力してほしい」とのメッセージ。1月にキックオフミーティングとのこと。
この段階で、nomenaやTANGENT、平瀬さんの名前もあり、これは去年とは違うなと感じてました。
今年の「からくりの森」
昨年2022年のからくりの森は、nomenaが3作品つくりセイコーも1作品で4作品が展示されていたのですが、2023年の2回目のからくりの森では、nomena、siro、TANGENTがそれぞれ1作品で、セイコーも1作品で合計4作品との話でした。
こ、これは他の作品と比較されるやつ、、
と、なんかやや恐怖を感じながらも「機械式腕時計をテーマに作品を作る」という楽しそうすぎるテーマなので、この時点でワクワクしてました。
チームづくり
この時点で、企画を提案しないとなので、企画を一緒にしつつ制作も共にするメンバーを集めようと考えました。こういう楽しいのは独り占めは良くないし「チームで取り組むsiro」というのも示したい。
siroでは日頃の仕事から社内のメンバーだけでなく社外の才能にも声をかけてチームを作って仕事してます。作品作りでも同様に社内社外の混成チームで取り組みます。
今回は、このメンバー。
神山 友輔
Spline Design Hubの神山くん。自分が20代の頃に学生で制作を手伝ってくれてました。その神山くんももうベテラン。メカもソフトできてデザインもできるデザインエンジニアです。ちょうど年末ごろに久々に会ったりしてたことで、お願いすることに。いいタイミングでした。
松下 裕子
オランダで活動してるデザイナーでもありペーパークラフト作家でもある松下さん。KAPPESで一緒に活動してた仲で、siroの仕事でも頼りにしてます。アイデア出しからコミットしてもらえる貴重な存在です。
渡辺 浩彰
siroの仕事でも欠かせない存在となりつつある渡辺くん。企画時点ではほとんどのプロジェクトを共にしてます。シナリオも書けるので最近は展示体験にストーリーを持ち込むチャレンジしたくて良きパートナーとして協力してもらってます。MONGOOSE STUDIOの時代から作品作りも共にすることもありました。
森 隆太
2022年9月からのsiroのスタッフの森くん。PMを担ってもらってますがいつかはプロデューサーをやってもらいたい。アイデアもある方だし作品作りを共にすることで学びがあるのではとの考えもあり、進行手伝ってもらいたいしでメンバーに入ってもらいました。
狩野 涼雅
2023年3月からsiroにジョインしてもらってる狩野くんですが、時計の機構を使った作家でもあります。そしてsiroではものづくりのアシスタントとしてさまざまなものづくりを担当してもらってるので、今回の作品制作でも試作から本制作までかなりサポートしてもらってます。頼りになるメンバー。
この5人に松山を合わせて6名で取り組んでます。
アイデア出し
今回は、「機械式腕時計のモジュールをつかって魅力的な作品を」というお題でした。
我々に関しては、とにかく「動くものを作りたい」ということは暗黙的テーマとしてありましたが、動力を機械式腕時計とするのはやや難易度が高い。ゼンマイで動いていてわずかな重さの針を動かす装置ですので、トルクの面でもなかなか難しい気がします。
あとチームメンバーで話すと、とにかく盛り上がるのは「時という概念」にまつわる話です。人間の感覚が曖昧なこととか、時間の話をするとタイムスリップしたような気分になるなど、まさに議論してる時も「時間を忘れて」その話をしてました。
初期の頃のアイデアスケッチを少し貼っておきます。
メンバーでいろいろアイデアをだしました。いろんなアイデアがでて面白かったです。
時のしずく
最終案に決まる直前はもうコンセプトは固まってました。
「時間という概念を水で捉え直す」
時間という流れゆく概念は捉えるのが難しいです。1秒や1分など断片的な名称がついてることもあり、細かく分けていくことができます。でもそれは人間の都合で実際は切り刻めないような繋がったもので、しかも流れていきます。
この分解可能でかつ流れとなるものといえば「水」です。
松山としては水を使った作品をたくさん手掛けてきてますので、水をモチーフにするのはとても相性がいいです。
ひと雫の水を1秒とした時どうなるか?
この思考を展開するとこうです。
1秒は1滴の水。
1分は60滴の水ということ。
1時間は3,600滴の水です。
コップに入り切る量でしょうか?
計算してみます。1滴の水は、オートピペッターによると0.4mL程度でした。つまり、1分は24mLで、1時間は1.44L(1,440mL)です。
1時間は大きなペットボトルくらいの量ですね。
すると1日は、34.56L。2Lのペットボトル17本と少しです。重さにして34.56kgです。
1週間は241.92L。1年は、12,614.4L。重さは1.2tです。
時間の重みが、質量に換算できるところが水のいいところですね。
このコンセプトをもとにどう形にするか、が最終プランに求められることでした。
機械式腕時計の分解体験
セイコーさんで分解体験をさせてもらいました。超面白かったです。こんな小さいパーツが精度高く組立っていて、信じられないような細さのヒゲゼンマイなど未知のものをみるような体験でした。機械で正確な時間を刻むというのがどうもコンピュータを使って精度をだすような作り方の我々には刺激がいっぱいでした。
そして、その中で重要な出会いがありました。歩度を調整する装置です。時計を組み立てたときに進み具合が早すぎたり遅すぎたりします。それを調整するのに測定器にのせるのですが、その測定器は実は時計の振動を音に変えて計測してるというのです。マイクのようなものでピックアップして計算してるとのこと。
「音!!」
それまでも機械式時計の刻むビートは心臓のようだと思っていました。一定のサイクルを刻むのに「生きてる感じがする」という感覚です。それはおそらく音だろうとチーム内でも議論してました。みみをくっつけて聞いてると、「チチチチチ」と音がしている。これが生きてる感じだと思ってました。その音を計測して調整するなんて!!
心臓の音で健康状態を判断してるのと似ています。本当に生き物のようだなと確信した出来事です。そして、この時計の刻む周期を計測する装置に魅力を感じました。
撥水との組み合わせ
撥水されたところに水を置くととても魅力的なことになります。水は集まろうとする性質があるので、球のようになります。それを1分の60粒ならべてみる実験をしました。
この手の試作の作業は、狩野くんと森くんでやってもらっています。このスタディで、とにかく魅力的な姿が見えてきました。
水滴を置き続けていくと一周しちゃうので、姿を消す必要があります。それは、落とすことで水滴が滑り落ちる姿を見られてより感動がありそうです。
落とすには風がよさそうです。すると真ん中には風を出す場所が必要です。それは隠したい。
続きはまた今度
だいぶ形が見えてきましたね。この時点でのまとめとしては、以下です。
時間を水で表現することで時間を改めて感じてもらうものにする
撥水は魅力的で、かつ一滴を留まらせることができる
機械式時計の音を計測してクロックとして使える(6Hz)
続きはまた書きます。この時点の情報を頭において展示を見てください。なるほど、こうなったか!と理解が進むことでしょう。
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