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5歳児の、悲しいときの対処法

土曜日の昼下がり。外があまりにいいお天気なので、家族そろって近所を散歩した。

息子はバスケットボールを持ってきて、歩きながらドリブルの練習に余念がない。夫から、「右手でも左手でも自在にドリブルできたら、強い選手になれるぞ」と言われて、利き手ではない左手でのドリブルを熱心に繰り返している。

わたしは、その様子を数歩後ろから見つめながら、娘と手を繋いで歩いていた。

娘は、家から水色の柔らかい布地の袋を持ってきていて、ぎゅっと手に握っている。

「中になにが入ってるの?」

と聞くと、わたしの顔を見上げながら娘が答えた。

ポンポンが入ってるの

ポンポンとは、子ども用の工作の材料によくある、まっくろくろすけ的な小さなふわふわした玉のことである。布袋の中に、ポンポンをぎっしり詰めて持ってきたらしい。

「なんでそんなものを持ってきたの?」

と尋ねると、

これをぎゅっぎゅって握ると、悲しい気持ちがちょっとましになるの

と娘が、前を向いたまま言った。わたしは、「へえ、そうなんだ」と相槌をうちながら、その意味ありげな一言が気になった。

「なにか、悲しいことがあったの?」

そういえば、さっき出がけに夫に何か言われて膨れっ面をしていたなと思い出しながら問う。

「うん」

娘は、小さな声で頷いた。でも、どうして悲しくなったかはわからないらしい。気持ちが沈んだ経緯や因果関係にまでは認識が及んでいないけれど、感情だけが現実として心にあるらしかった。

そして、ポンポンの入った袋の柔らかい弾力を手に感じながら、その気持ちを和らげているというのだ。

なるほど。5歳児なりに、自分の感情をうまく保つために試行錯誤しているんだなと感心しながら、わたしは娘に語りかけた。

「悲しくなったり、落ち込んだ時にどうすれば元気になれるのかを知っておくのはいいことよ。大人でも、みんながわかっているわけではないの。いろいろ試して、自分で見つけるしかないのよ」

わたしは、娘にとってのヒントになれば、と思いながら続けた。

「ママはね、悲しいことがあったらパパとかお友達に話を聞いてもらうかな。それから気持ちを正直に書いてみると、心が軽くなったりするよ。ほかには、ピアノを弾いたり、コーヒーショップに行って美味しいおやつを食べたりする」

「コーヒーショップ」のところで、頭の中でおやつを思い浮かべたのか、娘はにんまりと笑った。

そして、弾んだ声でこう言った。

わたしも一個思いついたよ。家族みんなでお外を散歩したら、気持ちが軽くなるね

そうそう、そういうことや。

5歳児との会話が、あまりにキレイに収拾がついた。わたしは、今日のnoteはこれで決まりだな、と一人考えていた。


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53日目!

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