2022/05/03
もうすっかり梅雨が明けようとしている。アスファルトから攫われた水分が大気に充満していて、街中が石油の香りに溢れていた。フロントは客の顔など見ることができないので、彼らの服装を眺めていると、露出が目立つ。最近、気が付いたことなのだけれど、男であれ女であれ、顔が見えなくとも色気がダダ漏れな人間がいる。グラマラスだとか、マッチョだとかそういうのは関係ないのである。どんな体型であれ、何か出してはならないフェロモンを彼ら/彼女らは出している。一つ一つの所作に、香りに、声に色気があって、一目見てみたいと思うけれど、さりげなく覗くことが難しい位置関係にあるので、いつも諦めてしまう。そういうときは数分間、なんとなく動悸が収まらない。けれど、数分後には客が来たり、何かしらが興奮を忘れさせてしまうので、平常に戻る。
このアルバイトのおかげか、本を読む習慣がつくようになった。もともと嫌いというわけでもないのだけれど、毎日本を読むようなことはなかった。バイト中に本を読むぐらいしかやることがないので、結果として毎日触れるようになった。最近は小説に好んで手を出している気がする。小説から得られる学びというものが僕にはあまり分からなくて、なんとなく敬遠していたものの、あるとき友人あるいは家族、はたまた恋人から「共感能力が低い」と言われたときにその対策を練らなければいけなくなった。共感する能力などさして重要ではないと思っていた。しかし、どうやら人間社会というものは共感に伴う信頼関係によって構築されるらしい。よって、共感能力は喫緊の課題となった。
小説というものは共感能力を養ううえで結構、大切らしい。映画でもいいらしいが、二時間拘束されるならば融通の利く文字の方が都合がいい。そういうわけで本をよく読むようになった。
もういいや、これ以上書くことがない。