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夜の短編シリーズ

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#童話

夜のファンタジー「さよならレイチェル」

夜のファンタジー「さよならレイチェル」

 さよならレイチェル。

 ぼくらは君のことを忘れない。

 何日たっても、何年たっても、君のことを忘れたりなんかしない。

 絶対に絶対に。

      ◇

 空は、水に溶かした絵の具みたいに、透きとおった青色をしている。その中を飛んでいるのは、うろこ雲や、枯れ葉や、鳥たち。そしてたった今ぼくの手から離れていった、黄色い風船。どこまでも、どこまでも高く、のぼっていく。

「行っちゃったなあ」

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朝の童話「ファンの花」

朝の童話「ファンの花」

 ちっちゃい少女ファンは、ふしぎな力をもっている。たとえば、花に水やりをしたとき。まだ、つぼみどころか、茎さえ太く成長していなかったそれが、ファンによってジョーロの水を注がれたとたん、ぐんぐん大きくなって家の屋根を追いこし雲を突きぬけ、しまいには星の彼方まで見えなくなってしまった。

 ところでファンが人々に忌み嫌われているのは、性格が悪いせいでも口べたなせいでもなく、ただ「ツン」として見える美し

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