限界係員/係長向け】メンタルカードの上手な切り方

はじめに
 今回は、身も蓋もないですが「マジで死にそうならとりあえず一旦メンタルで休もう」というお話です。メンタルが保全されていないと、転職活動するにしても役所に残るにしてもいろいろ詰むからです。
 なお、うまいメンタルカードの切り方が手っ取り早く知りたい、という方は後段からお読みください。

今回想定する役人像:限界係員/係長型

入省1-5年目程度。国会対応等で月の残業時間は150時間を超え、休日出勤も頻繁。平日に転職活動をすることはおろか、頭の整理すらままならない。他方、同期も頑張っているし家族の期待もあるので、逃げる/辞めることに抵抗がある。辛い。死にたい。もうダメ

とりあえずメンタルで休んでみることのすすめ

月150時間以上の残業が常態化する(それ未満でも、上司とソリが合わない等の問題を抱えている)場合は、即刻メンタルで休むことをおすすめします。それができたら苦労はしないよという声があるのは重々承知のうえなのですが、以下の理由から、安心してメンタルカードを切っていただければと思います。

理由①: 係員の労働環境でメンタルを病むのはごく自然なことである

恒常的に150時間以上の残業を強いられるのは、日本の企業ではごく一部です。事務系サラリーマンとしてそのレベルの労働を経験するのは、外コンでDD多めの人、IBD, 激しめのPE, ちょっと前の電通くらいではないでしょうか。異常な長時間労働、かつロジ中心でミスが許されない業務を、朝から朝まで続けていて、これで病まないほうがどうかしています。
 いま国会ロジを十分に回せていれば、役所以外の世の中では、あなたの体力やロジ能力は非常に高い水準にあります。ダウンしてもそれは一時的なものであり、あなたの基礎能力を否定するものではありません。安心して休んでいただければと思います。
 ただ、民間企業(特に外資)では体力とロジ能力以外のスキルがめちゃくちゃ問われるので、転職直後は泣くほど苦労するのですが、それは辞めた後になんとかしましょう。私はあまりなんとかなりませんでした。

理由②: 役所ですら、メンタルで休んでもその後出世のチャンスがある

これは1-2年目にはあまり知られていないことなのですが、役所で偉い人、結構休んでます。私の出身の某省庁では、三課長/秘書官/政策課長級ですら、キャリアのどこかで1-2ヶ月ダウンしている人がちらほらいます。人がメンタルで休む際に、どういう環境でダウンしたのか、秘書課や周囲は意外と見ているものなのです。あなたがそれまでしっかり仕事をできていれば、その後の社内キャリアへの影響は大きくないと思います。

理由③: あなたが休んだとしても補充人員は普通に来る

いま自分が休んだら周囲に迷惑がかかる、後輩がかわいそう、自分は替えが効かない…と言ってご自身を奮い立たせている人もいると思います。結論から言えば、多少迷惑はかかるのですが普通に大丈夫です。前回も書きましたが、官僚機構は本来替えが効く前提で組み立てられていないといけないはずです。某総理秘書官や、最近ご結婚された某局長、最近話題の某補佐官レベルでない限り、"余人を以て代えがたい"ということはそう簡単には起こりません
 実際、私が辞める前に在籍していた課(当時は最前線でした)の総括補佐が2ヶ月倒れてしまったことがあるのですが、なんやかんやで他の課から補充の補佐が配属されてきました。人狩りにあった課には多大なる負担が強いられたと思いますが、それでも役所全体としては普通に回っていました。なお、その倒れた補佐は、普通にエース級として出世しています。
 また別の事例ですが、私が一年目のときに、省筆頭課の総括係員が3末でさくっと辞めてしまったことがあります。その際も、私の同期がその課に異動になり、つつがなく回っていきました。役所はそういうものです。なお、その辞めた彼は複数の外資系企業やベンチャーを経て独立し、世の中に大きな付加価値を出しています。
 無論、自分のバックアップで入った人が同期や知り合いであれば、直接お礼をしておきましょう。また、こういう場合の秘書課の調整コストは大きいので、心のなかでお礼を言っておきましょう。とはいえ、重ねて申し上げておきますが、そういったコストがかかることは、あなたの心身が破壊されて良い理由になるはずがありません

おすすめのメンタルカードの切り方: マイルストンを決めて倒れる

はいえ、明日から休むのはさすがに辛いよというのは非常によくわかります。特に、小さい頃から親の言うことをよく聞いて、お勉強がよくできて、そこそこ良い大学に入って、役所を志し、死ぬほど退屈な公務員試験に合格したという私達のようなタイプには、目の前のことを投げ出してしまうということに強い抵抗があると思います。
 そんな場合におすすめなのは、「計画的に」倒れてしまうことです。予算が閣議決定されたら、税の大綱がまとまったら、局の重要法案が国会を通ったら、後輩ちゃんが5週間研修から帰ってきたら、など何でも良いのですが、「ここまでは頑張る」というマイルストンを自分で密かに決めて、そこまでは何があってもやり通す。達成されたら即刻メンタルカードを切る、というやり方です。
 私も短期間ですがこれを実践したことがあります。とある制度改正で250時間/月程度の残業を経験したのですが、閣議決定の次の日から、頭が割れんばかりに痛いでーすと言い残し2日ほど無断欠勤しました。が、特に誰からも何も言われませんでした。(その当時の係員やカウンターパートの皆様は閣議決定後も多大なる業務があったと推察され、その点において非常に申し訳なく思っています)
 このマイルストン方式はメリットが3つあります。①燃えている時の戦線離脱ではないため、原課や秘書課へのダメージを最小化できる ②役所内でのレピュテーションリスクを最小化できる ③一旦やり通しているため、自分の中でも整理がつく
 人間、お尻が決まっていれば意外となんとかなるものです。役所に限らず、限界労働環境にいる若手の皆様にとって、かなりおすすめの休み方と自負しています。

休み中の過ごし方

概ね1ヶ月は休めますので、その間に疲れた心と体を休めつつ、今後の身の振り方についてゆっくり考えましょう。直属の上司でない役所の先輩に加え、民間企業にいる友人の話をじっくり聞いてみることをおすすめします。それまで自分がいた環境を、良くも悪くも相対化できるはずです。
 そのうえで、役所で引き続き頑張ってみたいと思えるのであればそうすれば良いし、どうしても辞めたいと思うのであれば転職活動に振り切りましょう。なお、過労での休暇中に転職活動をするのは信義則的にはあまりオススメしませんが、民間(特に外資)では稀にあることであると申し添えておきます。そもそも、"辞めます"と言ってしまうと、"辞めて何をするんだ、それは世の中にとって意味があることなのか"と各方面から激詰めにあうので、転職活動を通じて民間での働き方の具体感を持っていることが必要です。残るにしても、いまの自分の労働市場での価値がどのあたりにあるのかを知っておくことは非常に有益です。

Disclaimer

このNoteは役所を辞めることを一般的に推奨するものではありません。役所の仕事は非常に面白いですし、民間より役所のほうが輝く人もぶっちゃけ沢山います。明らかに合わない人、限界的な状況にある若手に対して、「残るにしろ辞めるにしろ様々なオプションがある」ということを伝えたいから筆をとっています。宜しくお願い致します

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