見出し画像

札幌都心に潜む、角打ちの洞窟。

「鮨角打ち・裏酒商たかの」2020年12月19日(土)

未知なる「澄川」駅から、既知なる「大通」駅へ。
来慣れたエリアへの到着は良しとしても、外は強風で舞う雪が視界を閉ざした。
それは殺意を抱いているとさえ思われる寒さだ。
その中で目指した店は、小樽で堪能した角打ちの支店である。
が、地図上では確実に到着しているのに、店が見当たらない。
しかも来慣れたビルだというのに、その存在すら知悉していないことに驚愕と落胆を覚えながら店を探した。
店の看板はおろかのぼりもない。
と、ビルの地下の飲食店が連なる地下とは別の謎の扉に目が止まった。
店名はしっかりと刻まれてはいるが、明らかに皆を大歓迎しているようには見えなかった。
扉を開けて地下を覗くと、日本酒のラベルで覆われた洞窟のようであった。
地下は、この店以外にない。
店内は小樽と同様に賑々しいメニューが張り巡らされていた。
カウンターでひとり営業している若い男性スタッフから、『この場所すぐに分かりました?』
と質問され、苦戦したと報告すると、明瞭な笑顔と声音でこの店の営業スタイルを説明された。
まずはレジ前で1,000円セットのチケットを購入する。
目当ての酒を冷蔵庫から自ら選んでレジに運び、チケットと引き換えにスタッフに注いでもらい、瓶は客が冷蔵庫に戻す、という小樽の店とは異なるシステムであった。
まずは2,000円分のチケットを片手にしたまま、大きな冷蔵庫の前で立ち尽くした。
その中でもエメラルドグリーンの光沢に一瞬にして魅せられた。
八海醸造が作った「ライディーンビールIPA」だ。
ビールの苦味を抑えた澄んだ香りが心地よい。
澄川で食べた寿司をよそに、「さば塩焼き」と「あんきも」と濁り酒に乗り移る。
さらに1,000円分のチケットを追加で購入して、異なる濁り酒を手にした。
ホワイトアウトの街の中心で飲む白濁の酒。
すべてが白に霞む。
観光客のいない冬のこの街は、自慢すべきものや奢りすら否定され、ともすれば凍てつく絶海の孤島のようではないか?
シベリア抑留の兵士は、想像を絶する激寒の中で何を思ったろう?
現代のこの禍中、幸いにして酒という力は、激寒と見通しの立たぬ未来への不安を麻痺させる数少ない武器となるのだ。
それにしても何故か、濁り酒はアンニュイな妄想を掻き立てる。
残りのチケットを確かめた。
そんな妄想とは訣別しようと、最後は苦々しいラガービールで妙な妄想との訣別を図り、チケットも綺麗に手元から消えた。
少なくとも、次は1軒目から多様な酒と肴と向き合う、と端然と律した…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?