【深い本を読んで考える】『正欲』朝井リョウ
この世界の様々なことから目を背けず、思考停止をせず、考え続けたいと思って読んだ一冊。
『正欲』(朝井リョウ 著)。この本のあらすじや著名人の感想、読了ツイート等を読んだとき、「気持ち良く読めるかはわからないけれど、読まなければいけない本」という印象を受けた。
まだ読んだことがないという方は、試し読み部分だけでも見ていただきたい。
色々と悩むことはあるけれど、私自身は「明日、死にたくない」人だと思った。この本で救われるより、目を背けたくなる可能性が高いかもしれないと感じ、しかし、だからこそ、読まなければならないと考えて手に取った。
「多様性」がキーワードの社会における断絶
皆自分に正直に生きよう、一人ひとりを尊重しようという「多様性」が重視される社会には、様々な立場の人がいる。
まず、そうはいっても「正解の人生」があると考える人。この本では、不登校の息子を持つ検事の啓喜がこのタイプに該当する。
次に、「多様性」を認める社会にしていこうと動く人。「ダイバーシティフェス」を指揮する紗矢やよし香、八重子。性的マイノリティのドラマのプロデューサー。皆を導こうとする人もいれば、恋愛が苦手など自分自身も生きづらさを感じており自身をも救いたいという思いから動く人もいる。
そして、「多様性」からこぼれ落ちる人。皆が想像するマイノリティの外にいる人。この本には、水に興奮するという特殊な性癖を持つ夏月、佳道、大也が登場する。
この人たちは、「多様性」を認める社会にしていこうと動く人たちについて、冷めた目で見ている。結局、自分たちが想像できる範囲の「多様性」を認めようとするだけではないか、と。受け入れるも受け入れないも、夏月たちのような人はここに存在するのに、偉そうに自分が導く側になるなんて、なんておめでたい人だ、と。
この本では、自然と世間に適応できる人々と、特殊な性癖を持ち社会から疎外される人々の運命が、交錯する。
明日の自分が生きやすい社会へ
この本を読み終えると、「皆が生きやすい世界にしていきたい」なんて、気軽に言えなくなる。
私がどう考えようと、私の想像が及ばないような人々がたくさんこの世の中には存在するはずだし、その人たちも含めて生きやすい世界を作ろうなんて考えること自体がおこがましいと思う。
しかし、佳道のこの言葉が、私にはすっと入ってきた。
自分とは違う人が生きやすくなる世界とはつまり、明日の自分が生きやすくなる世界でもあるのに。
状況や深刻さの度合いはそれぞれでも、いつでも自分がマジョリティであるということはないはずであり、自分事として、明日の自分が生きやすい社会にするにはどうしたら良いか深く考えたいと思った。
すぐに結論が出ることではなくて、考え続けることが重要だと思うけれど、「相手も自分も尊重しつつ、理解してもらおうとか、理解しようとかしすぎない」「信頼できる人、考えが似ている人との繋がりを大切にする」「『普通は〜なのに』『皆〜なのに』と考えたり言ったりすることを自分に対しても他人に対してもやめる」「他人の話を先入観なしに聞く」「世界には自分の想像すら及ばないことがたくさんあると認識する」といったことから始めていきたい。
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