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【読書】『ヴァン・ショーをあなたに』近藤史恵【三舟シェフについて知る、シリーズ第2作】


従業員4人の小さなフランス料理店を舞台とする、「ビストロ・パ・マル」シリーズ。第1作の『タルト・タタンの夢』が面白かったので、第2作も読んでみました。


🍎『タルト・タタンの夢』の記事はこちら↓


三舟シェフの過去や考えが覗ける


上記の記事で、「三舟シェフはじめ、従業員の4人にはまだわからないことが多い」と書きましたが、今回は、三舟シェフの過去や考えを覗くことができる作品となっています。


収録されている短編は、

三舟シェフが以前働いていたお店の見習いで、今は自分のお店を持った南野さんに対し、三舟シェフが料理人とは何たるかを改めて説く『憂さばらしのピストゥ』

三舟シェフが気になる女性客、新城さんについてのお話『マドモアゼル・ブイヤベースにご用心』

フランスで料理人として働いていた頃の三舟シェフのお話『天空の泉』『ヴァン・ショーをあなたに』

など、全部で7つあります。


三舟シェフは、料理人としての誇りを持っているのに加え、常に周囲をよく見ていて優しく、愛想が良いわけではないけれども温かい人だなと感じました。


表題作『ヴァン・ショーをあなたに』


短編7つはどれも素敵でしたが、私は特に表題作が好きでした。


フランスのクリスマス・マーケット、マルシェ・ド・ノエルにおいて、ミリアムおばあちゃんのヴァン・ショーは、とびきり美味しいと評判でした。


ところが、ある年、ミリアムおばあちゃんはいつものヴァン・ショーを作るのをやめてしまいます。理由は、体調を崩した娘の夫にヴァン・ショーを出したところ、彼は非常に喜んでくれたのに、後でそれが捨てられていたことがわかったことです。ミリアムおばあちゃんは傷ついていました。


マルシェ・ド・ノエルでその話を聞いた、フランスで修行中だった三舟シェフは、あることに気がつき、ミリアムおばあちゃんに伝えます。それにより、ミリアムおばあちゃんは、絶品のヴァン・ショーをまた作り始めます。


ミリアムおばあちゃんと義理の息子の関係から、言葉が通じなくても、思いは伝わるのだと胸を打たれました。そして、どちらも悪くないのにすれ違っているという場面で、解決策を提示した三舟シェフは素晴らしいなと思いました。


相手を傷つけないようにするのはもちろん大切ですが、自分の気持ちをしっかりと伝えることも同じくらい大切なんですね。お互いの考えを知ってはじめて、第3の道や新しい解決策を探すスタート地点に立つことができるのだと実感しました。



お読みいただき、ありがとうございました。


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