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スウェーデン語文法落穂拾い①

スウェーデン語文法のうち周縁部に属するものを適当に取り上げていきたいと思います。

初回は強変化動詞の過去複数形について。

0 はじめに

同じくゲルマン語である英語やドイツ語でそうであるように、スウェーデン語でも動詞の基本形を覚えることが求められます。

當野能之先生の以下の記事から重要な不規則動詞の変化形が2ページに簡潔にまとめられた表をダウンロードできますから、是非利用させていただくといいと思います。

さて、この表ではそれぞれの動詞の不定詞、現在形、過去形、完了分詞(※)、命令形、過去分詞(と意味)が触れられています。実際に眺めてみると推測できると思いますが、現在形と命令形は不定詞と、過去分詞は完了分詞と強勢のある母音が同じです。従ってこの六つの形の中でも特に不定詞過去形完了分詞を覚えることが大切です。スウェーデン語の動詞のあらゆる屈折形はこの三つの形を知っていれば規則的に導けるからです。英語やドイツ語における三基本形と同様ですね。

※完了形を作るのに使う分詞。スピーヌムともいいます。英語やドイツ語で完了を助動詞と過去分詞で表すのと同じです。

さて、上で述べたようにスウェーデン語は英語やドイツ語と同じくゲルマン語に分類される、いわば姉妹のようなものでした。では、ゲルマン語全体の特徴として、動詞の形は不定詞・過去形・過去分詞の三つの形から導けるのでしょうか??

いいえ、そんなことはありません。実は現代の英語やドイツ語やスウェーデン語は動詞の変化が簡略化されており、本来的には不定詞・現在形・過去単数・過去複数・過去分詞の四つの形を知っておく必要があります。現代語でもアイスランド語やフェーロー語にしか過去単数と過去複数の差異は残っていませんが、英語やドイツ語やスウェーデン語でも古語では過去単数と過去複数の語幹の母音に差がありました。現在のスウェーデン語は過去複数に対しても過去単数の母音を用いるようになった言語なのです。

しかしスウェーデン語の文語では過去複数形が比較的遅くまで残っており、古い文章を読むときにはその知識が必須になってきます。今回はこの形を覚えることを目標にしたいと思います。

★脱線★ ちなみにドイツ語の werden の過去単数(三人称)は wurde と教わりますが雅語では ward が用いられます。『歓喜の歌』でお馴染みですね。 これも四基本形の名残と言えます(werden では過去単数に対して過去複数の母音を用いるようになりました)。

Küsse gab sie uns und Reben,
Einen Freund, geprüft im Tod;
Wollust ward dem Wurm gegeben,
und der Cherub steht vor Gott.

von Schiller "An die Freude"

1 スウェーデン語の過去複数幹

前置きが長くなりましたが、スウェーデン語の過去複数幹を覚えるのは難しくありません。完了分詞と同じ母音を用いる場合過去単数と同じ母音を用いる場合その他の三つに大別されますが、基本は前者二つです。

1.0 過去複数の語尾

これまで強勢のある母音についてのみ述べてきましたが、語尾も単数とは異なってきます。といっても大したことはありません。基本的に過去単数形の母音を(必要ならば)変え、屈折語尾 -o を付けるだけです。

1.1 完了分詞と同じ場合

不定詞の強勢母音が i か ä で完了分詞の強勢母音が u であるような動詞がここに属します。ゲルマン語学的には強変化動詞第三類(不定詞 i)・第四類(不定詞 ä)に属する動詞と特徴づけることができます。ただし、語の類別というものは言語のシステムの改変によって動揺するものですから、例外がないわけではありません。

典型的な例として binda, bära を挙げておきます。

binda, band, bundo, bundit

bära, bar, buro, burit

1.2 過去単数と同じ場合

1.1に属さない動詞は、例外的な1.3で取り扱う動詞を除いて全て過去単数と過去複数の母音が同じです。

ここには多くのタイプの強動詞が属しますが、第一類に属する stiga や第二類に属する flyga が典型的といえるでしょう。

stiga, steg, stego, stigit

flyga, flög, flögo, flugit

1.3 その他

vara, ge (giva), be (bedja) の三動詞のみがここに属します。丸暗記してしまいましょう。

vara, var, voro, varit

ge (giva), gav, gåvo, gett (givit)

be[dja], bad, bådo, bett (?bedit)

1.4 子音に注意の必要な強動詞

過去複数形は基本的に過去単数形の母音を(必要ならば)変え、屈折語尾 -o を付けることによって作ることができますが、二つ例外になる動詞 , があります。

få, får, fick, fingo, fått
gå, går, gick, gingo, gått

なお、これはスウェーデン語史において、 -nk- > -kk- (-ck-) の同化は起きたものの、 -ng- はそのまま保存されたことによります。

2 スウェーデン語の接続法過去

スウェーデン語の接続法過去も、直説法過去複数と同じく廃れてきている動詞の形態で、よく使われるのは vara に対する vore 程度です。一方、古い文章では珍しくありません。

しかし、心配は無用!直説法過去複数の -o を -e に変えるだけです。

3 まとめ

・現代のゲルマン語の動詞の形態の把握には不定詞・(直説法)過去・過去分詞の三つの形が重要

・古語(やアイスランド語)では不定詞・過去単数・過去複数・過去分詞の四つの形が重要で、スウェーデン語の文語では比較的遅くまでそのシステムが残っていた

・不定詞の母音が i か ä で完了分詞の母音が u であるような動詞は過去複数は完了分詞と同じになる

・vara, ge (giva), be (bedja) は例外的な動詞

・その他は過去単数と過去複数の母音が同じだが、få と gå では過去複数で -ng- となることに注意が必要

・接続法過去は過去複数の -o を -e に変えるだけ!

参考文献

・Svenska Akademiens Grammatik

スウェーデン語の動詞の形態については過去の記事でも実例と共に触れていますから読んでみてください。


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