面白い英単語⑥~to and fro~
英語の to and fro という表現をご存知でしょうか?そこまで稀な表現ではありませんが、高校生だと知らない方が普通ぐらいの表現でしょうか。私は高校の頃は知らず、初めて見たときは from の誤植かな?と思ってしまいました(笑)
to and fro の意味ですが「あちらこちらに」という意味で日常的にも用いられますし、医療(循環器)で to-and-fro murmur というと、往復雑音(収縮期と拡張期両方で雑音が聞こえますが、それぞれの雑音が異なる血流方向を反映しています)と訳されます。
さて to と and はよく知られているとおりの単語ですが fro はあまり見ませんよね?この由来について述べたいと思います。まず、意味から推測できるかもしれませんが、この fro は from と語源的に関係があります。どういうことかというと、 from は本来語ですが fro は対応する北ゲルマン語の単語の借用なんですね。
実際に fro に対応する、「~から」を意味する北ゲルマン語の単語を挙げてみます;
アイスランド語 frá
スウェーデン語 från
デンマーク語 fra
スウェーデン語の från の -n の起源についてはよく分かっていないのですが、アイスランド語やデンマーク語の形を見ると単語が母音で終わっているのが分かりますね。実際のところ、スウェーデン語についても、現代語については上で述べた通りですが、古スウェーデン語では fra と -n が付いていない形が確認されています。
それでは、そもそもなぜ北ゲルマン語では単語の末尾の -m がないのでしょうか?実は北ゲルマン語にも、語源を同じくする -m がある単語が残っています;
アイスランド語 fram
スウェーデン語 fram
デンマーク語 frem
ただし、これらは「前に(forward)」といった意味です。意味的には「~から」と逆のようにも思えますが、方向性を表わす意味が分化・転化して現在のように二系統に分かれたと考えられます。ちなみにデンマーク語だけ母音が e ですが、これは比較級語尾のついた単語 fremre からの類推と考えられています。
さて、末尾の -m がない系列の単語がどう生じたのか、という問題に戻りますと、これらは -m がある形が後接語(前から付く語;proclitic)として用いられたのが m の消失と母音の鼻音化を経て frą になり、後の時代の鼻音化の解除により現在の形になったと考えられています。接辞のような無強勢語の方が形が摩耗しやすいですし、後続する語の語頭音などの影響もあって消えることは納得できる気がしますね。
まとめ
・to and fro は『あちらこちら、往復』といった意味
・fro は from の誤植ではない
・fro は北ゲルマン語からの借用で from とは二重語
・北ゲルマン語には語末の鼻子音の有無の差を見せる二系列が残されており意味が分化している
参考文献
Hellquist, "Svensk Etymologisk Ordbok"
寺澤、『英語語源辞典』
Oxford English Dictionary
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