攻略サイトの収益化に失敗した話

攻略サイトの収益化に失敗した話です。

「いや、収益化できとるやん?」とつっこまれると思いますが、正しく伝えるなら「収益化したけど、目標を満たせなかった」、または「収益化したせいで身動きが取れなくなった」とも言うべきでしょうか。

※有料記事にこそしませんが、かなりかっ飛ばした論調で展開していますので、話半分で読んでください。

『INCOMPLETE CONQUEST』について

私、いぐにすは『INCOMPLETE CONQUEST』(http://geppopotamus.info/)というWEBサイトを運営しています。

サイト運営ですが、古くは2002年4月末に、日記系テキストサイト『犬小屋』としてスタートしました(また、当時はハンドルネームを『犬神一郎』と名乗っていました)。日記やエッセイ、短編二次創作の小説や創作論を記事にあげるかたわら、自分がプレイ中のゲームの攻略をまとめた記事も作成しました。これが、現在の『INCOMPLETE CONQUEST』の前身となります。

ゲーム攻略は、鉄拳4やソウルキャリバー2、仮面ライダー龍騎、仮面ライダークライマックスヒーロー、ドラゴンボールZ(2003年発売のPS2版)など、格闘ゲームを中心にやっていました。もともとよくゲームをやる人間でしたが、攻略が格闘ゲームに偏ったのは、中の人が何度か店舗大会で優勝したりと、そこそこ格闘ゲームに自信があったので自然な流れでした(ちみに2Dは苦手で、昇竜拳が出せませんでした)。

ただ、勝てていたのはインターネットが普及する前の時代の地方での話でした。進学・就職にともなって大都市や首都圏に拠点を移したことにより、自信は完膚なきまでに砕かれてしまいました。都会はレベルが全然ちがった……。

2008年に発売したソウルキャリバー4に合わせて、攻略を本格的に煮詰めて、格闘ゲームキャリアをやり直すことにしました。そうして、気合をこめて起ち上げたサイトの1コーナーが『SOUL CALIBUR Ⅳ INCOMPLETE CONQUEST』でした。以降、鉄拳6、ソウルキャリバー5、鉄拳TT2、鉄拳レボリューション、鉄拳7、ソウルキャリバー6と、格闘ゲームに特化したゲーム攻略記事は、タイトルに『INCOMPLETE CONQUEST』を冠したシリーズとして記事を独立させています。

タイトルの由来

『INCOMPLETE CONQUEST』のタイトルは、アーケード版ソウルキャリバー2にあったゲームモードのひとつ「コンクエスト」が元ネタとなっています。『conquest』は翻訳すると『征服』という意味になります。ただ「個人の独力で攻略の全てを網羅することは不可能」という思いから、incomplete = 『不完全』という断りを入れた形になります。あわせて incomplete conquest =『不完全な征服』、転じて『不完全攻略』という意味合いです。

『INCOMPLETE CONQUEST』と同名の本が英語圏にあるのですが、偶然の一致で、関連はありません。

収益化の経緯

収益化を決意したのは、2017年12月から翌年1月にかけてでした。2017年6月にコンシュマー版・鉄拳7が発売され、その攻略サイト運営に注力している最中でした。なんと、絶望視されていたソウルキャリバーシリーズの新作、ソウルキャリバー6の発表があったのです。

当時、ソウルキャリバー(SC)シリーズは2012年にナンバリングタイトルのSC5が発売されたあと、課金制ソシャゲライクでSC5のシステムを使い回した非対戦型アクションゲームの『ロストソーズ』、カードゲームの『アンブレイカブルソウル』と、ジャンル自体が迷走しており、まともな格ゲーとしてのナンバリングタイトルの続編がまったく期待できない状態でした。なので、SC6の発表は、完全に寝耳に水でした。

そもそも鉄拳7のフレームサイトは、ina tekken wikiありきで、inaの精度アップ、およびinaにないデータをフォローする目的で運営していました。まさかinaが閉鎖され、自分が後継になるとは思ってもみませんでした。ついで、しのぎを削った当時のライバルサイト『TEKKEN PUNISH』は、中身がinaのコピーで、その後のアップデートに対応できる見込みが薄く(実際、対応できませんでした)、鉄拳コミュニティを維持するため、鉄拳7のサイト更新を続けざるをえない状況になっていました。

一方、SC6のフレームもまた、SC5がそうであったように、自分の牽引なしには維持がむずかしいことが予想できていました。攻略プレイヤーとしては鉄拳から名前を売り出しましたが、コミュニティとの関わりの深さから、既に自分は鉄拳ではなく、キャリバーのコミュニティの一員という自覚が強く、キャリバーの攻略をしないという選択肢はありませんでした。そしてキャリバーを盛り上げるためには、フレームデータは必須でした。

キャリバーを優先し、鉄拳はフレームデータのみ調べることを決めたのですが、それでもなお、2タイトルを一人でメンテするキャパシティに不安がありました(実際この不安は的中して、キャリバー関連のアプデ対応メンテにとんでもないコストがかかりました)。そこで、外部の人間に助力を乞う決断をしました。

ただしフレーム調査は、機材の投資、専門知識、さらに長時間の拘束を強いる、なかなか大変な作業です。とても気軽に人に頼める内容ではありません。くわえて、いぐにす自身の人脈に、それを頼める人材もありませんでした。

そこで、サイトを収益化して、その収益を機材費や人件費にあてて、サイトを運営することにしました。いぐにすの理想としているフレームデータは、フレームのプラスやマイナスだけではなく、備考欄などの追加情報を充実させたいという思いがありました。また、PCやモバイルの環境でも見やすく作ったり、トップページから数アクションで目的の情報にアクセスできたりと、ユーザビリティも配慮したりと、使いやすさも重視しています。

ボランティアに、そういう意識の高い要求を呑ませるのは、とてもじゃないですができません。ボランティアで済ませられる労力ではありません。十分な報酬があって当然だと考えたのです。

2018年5月の連休を利用して、収益化の条件である独自ドメインの取得を行いました。そこから試行錯誤をして、条件にひっかかりそうな過去のコンテンツを非公開にし、3ヶ月後の8月にようやく、googleアドセンスの審査に通りました(このとき、サイト名を『犬小屋』から『INCOMPLETE CONQUEST』に変更しました)。

最初の誤算

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さて、googleアドセンスの審査に通り、広告収入が入るようになりました。今、軽く検索すると、上記のような単価表が出てきます。1PVあたり0.3円という予測が立っています。PV(ペーパービュー)はWEB解析の用語で、WEBの1ページの見られた回数を指す用語です。自分が審査を通そうとした頃は、一般的に1PVあたり0.5円の収益が入るという予測が出ていました。

収益が実際のところどうだったかというと、ウチのサイトは1PVあたり0.05円くらいでした。予測の1/10です。

あえて月間PVは明かしませんが、まぁ、お察しください。現在はさらに収益がさがり、1PVあたり0.02円くらいしか収益が出ていません。完全にあてが外れてしまいました。原因として、

サイトの性質上、常に新しい記事で目を引いているわけではない。
閲覧者がゲーマーなど、ある程度インターネットやWEBに詳しい層のため、広告を踏みにくい。

といった特徴があげられるようです。ターゲット広告とか自動で出してくれているようですが、広告をあえて踏みますか? 踏まないですよね?

余談ですが、少し前の広告内容は「マクドナルドのクーポン」「Amazon Prime Video」「ビビッドアーミー」の三本柱でした。現在は「マクドナルドの限定メニュー」「WEB漫画サービス」の二強になっています。

海外展開を考える

これではとても報酬が払えない。もし報酬を支払おうとしたら、持ち出しになってしまう!

……というわけで、次の手をうちました。海外展開です。海外の鉄拳フレームサイト大手の『RANKING BATTLE NORWAY』(http://rbnorway.org/)は、自分ではフレームを調べず、翻訳と称してina tekken wikiのデータをコピーしていました。鉄拳の海外市場は、国内の10倍以上あると言われています。であれば、inaの後継であるウチのサイトが英語対応すれば、海外のPVを丸っと手中にして、当初の予定通りの収益が入るのではないか、という皮算用を行いました。

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結果がこれです。閲覧者の国籍比率なのですが……。海外は市場が10倍以上あるにも関わらず、英語対応を行った結果、1割増ほどしか見込めませんでした(ちなみに韓国、中国は英語対応を行わなくても一定層ウチを見てました)。かけたコストはすさまじいのですが、またもや見込みが外れてしまいました。

なぜこのような結果になったのかを分析してみました。理由のひとつは、海外のプレイヤーはフレームをさほど重視していないのではないか、という結論です。フレームという共通文化を持っている日本や韓国のプレイヤーが強いのも、ひとつの裏付けになっているかと思います。

別の理由として、知名度があると考えました。当時redditあたりに簡単な検索をかけた感じ、『RANKING BATTLE NORWAY』や、そのデータを股コピーしたフレームアプリ『T7 Chicken』が支持されているようでした。中身のデータがオリジナルではなく、コピーであったり、精度が低かったとしても、それを気にするのは一部の意識の高いプレイヤーのみで、ほとんどのプレイヤーはそのことを気にしていないようです。

似た理由で、どうやら欧米圏は差別的で閉鎖的であるようです。自文化圏ではないものは、極力触れないようにする傾向がうかがえます。いくつかのコミュニティやメディアにおいて、『RANKING BATTLE NORWAY』や『T7 Chicken』が扱われることはあっても、データの大元となったウチのサイトが取り上げられることはありませんでした(『RANKING BATTLE NORWAY』が翻訳元としてウチのサイトを挙げているにもかかわらず、です)。

ちなみに同様の現象はキャリバーでも見られており、アジア圏のプレイヤーは間違いなくウチのサイトを見ていますが(トッププレイヤー層からの言及があります)、欧米圏でウチのサイトが取り扱われることはほぼありません。フレームwikiの『8wayrun』があったり、アプリの『Frame Calibur』があったり、仏コミュニティがkayane女史を中心にサイトを立ち上げた結果で、似たような構造になっています。

(ちなみに日本のコミュニティが海外に積極的かというと、とてもそうは思えませんが、情報の発信源が自国コミュニティ内でまかなえている点で事情が異なるため、必要があっても関わらないようにするといった意味での差別や閉鎖的な気質は感じられないとコメントしておきます。)

海外のサイト分析サービスによる、ウチのサイトとライバルサイトの解析結果を比較してみましょう。まずはウチのサイトです。

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解析が海外の外部サイトのためか、googleアドセンス内部の解析結果と国籍比率が異なりますが、おおまかなところが把握できるかと思います。

これに対して、「tekken frame」の検索で英語圏google首位の『RANKING BATTLE NORWAY』と比較します。

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閲覧者は1.3倍差をつけられています。内容では全然勝てるのですが、たとえ全ての閲覧者をこちらが奪えたとしても(そんな方法があったとしても)、収益が今の2.3倍になる程度で、人を雇うような運営に十分な収益が得られないことが試算できています。ソウルキャリバーの方は英語対応を行っていませんが、向こうはもともと攻略部門の基盤が鉄拳よりしっかりしている分、あまり期待できそうにありません。

サイト運営にどれくらいコストがかかるの?

最低コストとして、サーバのレンタル代がかかっています。さくらレンタルサーバを使っていますが、ライトプランの年間¥1,571円 + googleアドセンスに必要な独自ドメインで年間¥2,200、合わせて年間コストは¥3,771になっています。費用としては大した額面ではなく、趣味の範疇として呑み込めなくもありません。

解析のためキャプチャボードを使用していますが、これもまぁ、減価償却とかそういった細かいものから外しましょう。趣味の出費といえなくもないです。

英語対応や解析のために、PS4だけでなく、Steam版の購入も行っています。解析以外の用途で使用することがないので、これはある意味、サイト運営のコストといえるかもしれません(ちなみに英語対応については、PS4は言語設定が難しいため、Steam版で作業しています)。

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2020年のPS4プレイ時間です。キャリバーについてはプライベートで遊んだり、フレーム以外の攻略記事を作成したりがあるため、まったく遊んでいない鉄拳の方で考えましょう。シーズン3のマイナーアップデート、ファーカムラム、クニミツ、シーズン4の対応で、およそ100時間ほどかかっています(実際にはこれに計上されない形で、Steam版を起動して英語対応を行っています)。サイト更新部分については、プログラムによる自動化を行っているので、100時間というのは、ほぼ調査だけにかかる時間です(ちなみに2019年はシーズン2マイナー対応、DLC5キャラ、シーズン3対応で160時間ほどでした)。

質問です。あなたは年間100時間分の専門作業に、どのくらい報酬がもらえれば満足しますか?

最低賃金の時給設定でも、サイト収入でまかなうことができません。なので、プライベート時間の持ち出しという形で、いぐにす個人で対応するしかなかった、というわけです。

年間100時間は、拘束時間としては緩い方です。新作であれば登場キャラ全ての、差分ではなく1からの調べ直しになりますし、キャリバーはマイナーアップデートでPDFにして50ページ相当の鬼のような調整量を出してきます。実際、発売翌年の2019年キャリバープレイは1000時間で、総プレイ時間の9割でした。

収益化したばっかりに……

さて、専門作業なのに、たいして報酬が出せないという結果になってしまいました。サイト収入以外の私財を崩して運用資金にあてるくらいなら、サイト閉鎖した方がマシです。

収入増を見込んで英語対応を行った結果、コスト割れを起こしてしまいました。

収益が出ているのにボランティア作業をさせるわけにもいきません。他人の収入のためにタダ働きする都合のいい奴隷になんて、なりたくないですよね?

かといって、個人でこのまま更新を続けるには、コストが膨大すぎて荷が重いです。

という感じで、がんじがらめに首が絞まってしまい、喘いでいるのが昨今の事情です。


次回のnoteでは、今後サイト運営をどうするのかの話をしたいと思います。まだはっきりと方針は決まっていないので、ふわっとした内容になると思います。

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