56歳、会社辞めてシルクロードに餃子食べに出かけてみた③割り込み天国・行列地獄、ウルムチ
中国2つ目の街はウイグルのウルムチ。最近でこそコロナウイルスに押されて中国政府によるウイグル人弾圧はニュースにならない。
が、西安からウルムチにやって来ると今まで感じたことのない様々な違和感を感じるのだ。
同じ中国なのに何かが違う、だいぶ違う。
西安からは空路でウルムチへ向かった。
ウルムチ空港に降り立つと、空気が乾いているのを感じる。風も強く細かい砂埃が舞う中、タクシーに乗りウルムチ駅に向かった。明日の夜ウルムチから国際新台列車に乗ってカザフスタンへ行くのだ。
ウルムチの中心街が近づくと高速道路の高架からいくつもモスクの屋根が見えてくる。
ここはウイグルの街なのだ。
タクシーの運転手も彫りの深いエキゾチックな顔立ちをしている。
小一時間でウルムチ駅に到着した。
巨大な駅舎にも驚いたが、駅舎の前が人で溢れかえっている。
一体なんの混雑なのか?大音量で女性の声のアナウンスが繰り返し流れているが、もちろん私には何を言っているのかわからない。
「とりま 並ぼう」
いくつかある駅舎の入り口に向かって長蛇の列が何本もあるが、文字どおり蛇のごとくとぐろを巻いて、どの列が何の列でどこが最後尾かまるでわからない。私と娘は大きな荷物を背中に背負ったまま強引に列に割り込んだ。
中国では割り込みは当たり前。前の人との間隔が少しでも空くとパッと人が割り込んでくる。割り込み横入りがあまりにも常態化していて誰も文句は言わない。1人が割り込むとその人に続く人がいるので、1本の列がどんどん枝分かれしていく。
しばらく辛抱して列に並んでいると駅舎の入口にたどり着いた。
娘が中国語でチケットを買いに来たと入口の担当者に伝えると「違う、あっちへ行け」という仕草。そう、列が違ったんです。私たちが並んでいたのはチケットを持っている人が列車に乗るために駅構内に入るための列。チケット売り場に入るための入口はここじゃない、と言うのです。
じゃあどこ(−_−#)
気を取り直して建物に沿って人をかき分けながら移動し、別の列に割り込んだ。娘が中国語の「乗車券?」と周りの人に聞いていたので今度は大丈夫だろう。
駅舎の入口が近づいてきて、ようやく大混雑の理由がわかった。
駅舎に入る人は全員手荷物検査とボディーチェックがあるのだ。そこで時間がかかるので、入口の外は大渋滞。
私は重たいバックパックを下ろしてX線の機械に通し、女性係官のボディーチェックを受けた。私の荷物について係官が何か言っているのだがまったくわからない。近くに居た女子中学生たちが私に「Water!Drink water!」と英語で教えてくれた。ミネラルウォーターのペットボトルの中身が怪しい液体じゃないか確認するために係官の目の前で飲んでみせろという意味だった。
空港じゃなくて、駅ですよ。
ウルムチ滞在中、この鬱陶しい「安全検査」を頻繁に受けることになる。どんなに人の流れが滞っても、安全検査が優先されるのだ。
安全検査を終えて切符売り場に進むと拍子抜けするほどガランと空いていた。
窓口が1番から12番まで並んでいる。娘がツイッターで得た情報によると12番窓口が国際寝台列車の売り場らしい…が、12番窓口は閉鎖中?
仕方なく隣の11番窓口の行列に並ぶ。
11番窓口で「阿拉木图(アルマトイのこと)」と娘が言うと、窓口の人は隣の12番窓口を指差す。だから、12番が開いてないのー!と言おうと思ったら、いつの間にか女性の担当者が窓口に座っている。
切符と言っても日本の鉄道の切符とは様子が違い、1枚ずつ予約の内容を係のお姉さんが書類に手書きしていく。パスポートを提出し、名前も記載される。
ウルムチで1番心配だった列車のチケットを到着早々買えたので、一安心。あとはウルムチで適当に時間を潰して明日の深夜にまたこの駅に戻ってくればいい。
駅舎の外に出て、ホテルへ行く方法を考えた。
着いたばかりでまだ地理も理解できていない。路線バスに乗ってもいいが、荷物が重くて早く移動したかった。ウルムチ駅は駅舎も大きく敷地も広いので、バス乗り場にたどり着くのも一苦労だ。
タクシーにするか。
タクシー乗り場に向かうと、乗り場には数百人の人が順番待ちで並んでいた。
ここでもまた行列(涙)
人が多すぎるのか、タクシーが少ないのか。多分両方だ。
仕方なく列に加わろうとする私たちに、ウイグル人の身なりのいい女性が声を掛けてきた。白タクだ。
私は生まれてから白タクに乗ったことはない。
だ、大丈夫なのー?
娘が料金を聞くと、おそらく正規の2倍ぐらいの値段だが、悪くない金額だった。
中国で暮らしていた娘曰く、中国の白タクは割と良心的で、法外な料金を要求されたりトラブルは少ないと言う。
白タクは私たちのほかに出張帰りと思しき地元のビジネスマンも乗せていた。車のダッシュボードの上にはQRコードが置いてあり、地元のビジネスマンはスマホでピッとして降りて行った。こんなところにもQRコード…。中国のキャッシュレス決済は白タクにも。
ホテルに荷物を置いた私たちは、路線バスに乗って国際大バザールに行くことにした。
ちなみにホテルの入口でももちろん安全検査。
バスの窓から街を眺めていると、大きなビルの入口には大抵安全検査の関門があった。食事をするにも買い物するにも安全検査だ。
途中の繁華街の停留所からはものすごい人数の人がバスに乗ってきた。日本のバスなら運転手が「次のバスをお待ちください」と言ってドアを閉めてしまう限界を遥かに超えて人がどんどん乗ってくる。私たちは座席に座っていたからいいものの、立っていたらたまったもんじゃない。よくインドやなんかで、ありえないぐらい乗客の乗った列車の映像があるが、外側に人がぶら下がってはいないが、だいたいあんな感じ。
全員運賃払ってる??
国際大バザールは、小綺麗な屋台村みたいな所だった。地元の人で賑わう市場を想像していたので肩透かしを食った気分だ。
ここは、中国の各地からやって来る観光客がウイグルっぽい雰囲気を楽しみながら飲み食いするテーマパークなのだ。イスラムなのに生ビールを至る所で売っている。
私たちは生ビールと涼皮とシャシリクを買おうと思ったが、どの店も現金払いを断られた。大バザール全体で現金もクレカも使えない!!
尋ね歩いてようやく一軒のお店が現金で食べ物を売ってくれた。中国のキャッシュレスは徹底してる。外国人観光客なんてどうでもいいのね。
羊のスープにナンをひたして食べるこの料理は美味しかった。
もちろん国際大バザールの入口にも安全検査があった。
翌日は紅山公園へ。ここでも入口には安全検査。
人が集まる場所では必ず安全検査があり、街のそこここには鉄条網で封鎖された建物があり、とても平穏な街には思えなかったが、人々はそのことに気づかないフリをして生活しているようにも見えた。
ウルムチでは何度か白タクに乗った。普通のタクシーに乗りたかったが、全然居ないのだ。
繁華街では大勢の人がタクシーを捕まえようと道で待ち構えてる。正規のタクシーだけでなく白タクも取りあい奪い合いだ。
誰かが車を降りるとその車に駆け寄り運転手と交渉する。白タクだから見た目は普通の自家用車。白タクなのか家族を送りに来たのかは見分けはつかないが、とりあえず誰か降りると人が殺到する。
一台捕まえて乗ろうとしたら「DI DI?」と運転手に聞かれた。DI DIというのは中国のタクシー配車アプリだ。誰かが呼んだ車だったのでもちろん乗せてもらえず。
タクシー1台捕まえるのも一苦労なので、白タクに高い料金を請求されても、「もうなんでもいいから乗せて」という気分になってくる。
白タクは、客が中国人が外国人かで料金を決めるようで、娘しか見ないで乗せることにした場合は、大抵安い。中国語が話せるから中国人だと思われる。
私が目についた時はすごく高い料金を言われた。乗ってから娘が運転手と話したところによると、どうやら私をロシア人だと思ったらしい。(金髪のせいです)
高い料金を吹っかけた相手が中国語を話したから申し訳なく思ったようで、運転手さんは揚げた肉まんのようなスナックを私たちにご馳走してくれて和解を求めてきた(笑)
翌日ホテルから駅へ向かうためにホテルでタクシー呼んでもらったが、来た車はやはり白タクだった。真新しい日本車のクッションシートに身を沈めながらウルムチ駅に向かった。
ドライバーは「少し遠回りするけど、入口が混雑していない場所に着けるから安心しろ」と私たちに説明した。タクシーを降ろされた場所は前日大群衆の大混雑に巻き込まれたのとは反対側の入口で、私たちはほとんど待つことなく駅の構内に入ることができた。Good Job!
私が知る限り、中国に限らず白タクはたいてい手入れの行き届いたピカピカのいい車で乗り心地が良い。ふかふかのレザーシートでもちろんエアコンがきいている。配車アプリを使えば明朗会計で格安だ。
それに比べて大きな駅や空港で客待ちをしているタクシーは、車は汚くて埃だらけ、エアコンもナビも無くドライバーは行き先を間違える上に料金をぼる。
白タクも国によっては全然ありなのだ。日本の基準はあてにならない。
ウルムチからアルマトイまでの国際寝台列車のチケット。中国語、ロシア語となぜかドイツ語の3ヶ国語が使われている。ドイツ語だよね?旧東ドイツ製の列車だから?ほんとに?(私の推測です)
我々が乗るのはK9795、ウルムチ発23:33の便だ。
自動改札機はあるけど↑あんなチケットなので、自動改札機は通らない。時間が近づくとわらわらと人が改札前に集まってきて雑な行列ができ、改札が開くとわーっと我先に人が改札に殺到する、いつものカオスな行列風景。
私たちは寝台だったが国内で降りる普通車もあるので、そっちは自由席だったのかもしれない。
さあ!出発だ!
列車は4人一部屋のコンパートメントだが、空いていたのか2人で一部屋を広々と使えた。寝台の乗客は、アメリカ人のカップル、ドイツ人のカップル、中国人と思しきアジア人のカップルに日本人の一人旅の男性が2名に私たち親子の計10名だった。
この列車に関して唯一の情報源は、ウィキペディアだった。
ここに載っている時刻表によると
23:41にウルムチを出発し、翌朝8:00に阿拉山口という駅に到着、ここで出国手続きを受けるということだった。
目的地のアルマトイ2駅には出発の翌々日の朝の6時近く。2晩車内で過ごす覚悟で食料と水を買って列車に乗り込んだ。
翌朝8時前には荷物をまとめて出国手続きに備えていたが列車は止まらず車掌さんもやってこない。
私たちはGoogleマップとウイキペディアを見比べてみた。まず出発駅と出発時刻が違う…。私たちが列車に乗ったのはウルムチ南駅ではなくウルムチ駅だし、出発時刻は23:33だ。地図で現在地を見ると、ほとんどカザフスタンとの国境近くまで来ており、阿拉山口駅とは全然違うルートを列車は進んでいるようだった。
11時近くに車掌さんが来て、「もうすぐ駅に着くから全部荷物を持って列車の外に出る」と言われた。どうやら出国手続きらしい。
到着した駅のロビーで「荷物はこのまま置いておいていいから、外でお昼を食べて14:00頃に戻ってきて」と言われた。
え?ここはどこ?
降ろされたのは霍尔果斯という駅だった。
ウルムチからバスでカザフスタンに向かう場合にはこの霍尔果斯で出国手続きがあるとは聞いていたが、国際寝台列車の駅があるというのは初耳だった。
駅舎の周りを見るとあたりは工事中で、駅舎も真新しい。最近できたばかりの駅のようだ。
どっかでご飯食べてきてと言われても、駅前はこんな感じ。かろうじて道路はできているが、あとは全部工事中だ。
工事関係者しか歩いていない。
列車の乗務員の人たちが歩いて行く方向に私たちも歩いていくと営業しているお店もあるようだった。
見つけた店でとりあえずビールで乾杯。
「ぬるいのも冷たいのもあるよ」と店のおじさんが声をかけてくれた。しばらく中国にいるとぬるいビールも平気になってくるが、9月のウルムチはさすがに暑い。冷たいビールが美味しかった。
シルクロードの旅2つ目の餃子は正統派水餃子。もう1品、ホルモン煮込みの麺を頼んだ。
餃子も麺もしっかりした生地でおいしかった。田舎の小さな店なので、当然、餃子の皮も麺も自家製だと思う。プラスチックの安っぽい色の丼がいかにも現代中国風だ。
中国では餃子に黒酢をつけて食べるので、卓上に黒酢の容器はあるがそれ以外の調味料は備え付けられていない。娘が店の主人に醤油が欲しいと中国語で頼んだ。「え?あんたたち餃子に醤油なんてつけるの?」と驚いた様子だったが、自家製の醤を厨房から出してきてくれた。
14:00前には乗客は全員駅のロビーに戻っていた。
そのあとどうなるのか、何時に列車が出発するのか、なんのアナウンスも無い。
私たち10人は各々ロビーで時間を潰すしかなかった。ドイツ人とアメリカ人のカップル2組はすっかり打ち解けて談笑していた。
なぜかこういう時に日本人同士は全然口を聞こうとしない。不思議だ(笑)
男子大学生とは何度か言葉を交わしたが、私と同年代の日本人男性は私たちと目を合わせようともせず、絶対に話しかけて来ないでねオーラを出していた。なぜ??🤣
同室の大学生ともほとんど話をしていなかったようだ。
しばらくロビーで待っていると、いかつい二人組の男性が近づいてきた。手に持ったスマホから「私たちは警察です。パスポートを見せてください」と日本語の音声が流れた。私服の警察官だった。
特に取調べっぽい厳しい雰囲気はなく友好的ムードでいくつか質問をしてくる。
・中国にはどの街から入国したのか
・そこからウルムチまで何で移動したのか
・このあとの予定は
確かこんな質問だったと思う。警官たちは見た目はごついが特に答えに窮するような質問はしてこない。なにしろ日本語だし。
その後、ゲートの向こう側に係官が何人か配置につき、出国の手続きが始まった。もう夕方近くになっていた。
1人ずつ、パスポートをゲートの入り口で見せてからゲートに入り、出国審査のブースでまたパスポートを見せ、出国スタンプを押してもらってからまた別の係官にパスポートを見せて、列車に乗る前にまたパスポートを見せる。最低でも5回はパスポートチェックだ。出国手続きがこんなにしつこいのはやはり陸路だからなのか?
スマホの中も一通りチェックされる。特に写真とWeChatの履歴はしっかり見られると聞いていたので、娘はアプリからウイグル系の友人とのトーク履歴を消し、ウイグル系の友人の写真も全て削除してあった。
ウイグル人とつながりがあると分かると厄介なことになるらしい。
寝台列車の乗客10人全員の出国手続きが完了すると、ようやく私たちはもと居たコンパートメントに戻ることができた。
おそらく、霍尔果斯の街で5、6時間は待たされたことになる。
さあ、いよいよ列車に乗ったまま国境を越える。
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