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AIの社会実装について

こんにちは、ジョージ・アンド・ショーン(以下、G&S)のブランディング担当の松本です。
今回は、社員インタビュー第6回目です!
第6回目社員インタビューでは、G&Sで認知症早期検知AIの開発を担当している横山 慎一郎さんに、「AIの価値って何?」「技術者にとって大切なこととは?」など、AIの基礎やビジネス現場で技術者として働くための心構えについて教えていただきました。
ぜひお楽しみいただけたら幸いです。

プロフィール
横山 慎一郎
東京大学大学院工学系研究科卒業後、外資系ITベンダーに就職。クラウド開発のセールス、プリセールスを経て、現在はデータ分析・AI開発に従事。2018年にGeorge & Shaunに参画し、主にMCI・認知症早期検知AIの開発を担当。

AIを活用することで得られる"きっかけ"を最大化していく


ーまず、AIとは何でしょうか。
Artificial Intelligenceの略称で人工知能と訳されます。人間の知能をコンピュータによって代替させる技術や研究分野のことです。その中の一つに機械学習という分野があります。コンピュータ(機械)がデータに基づき自動的に学習することでパターンや規則性を発見し、新しいデータに関して識別や予測が可能になる技術です。また深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる技術は機械学習の一種になります。最近ではAIをこれら機械学習、深層学習の文脈で語られていることが多いです。
識別や予測が可能になることで、無人コンビニで商品が自動で識別されたり、自動運転車が歩行者を検知できたりするわけです。ECサイトのリコメンデーションやスマートスピーカーなど、AIは日常でも至るところで利用されています。日々技術は進展しており、今では画像や音楽、自然な対話も作成できるようになりました。昨年の紅白歌合戦での荒井由美の再現も、このようなAI技術によるものです。しかし、AIが何でもできるというわけではなく、学習させたデータの範囲内でのみ機能する点が重要なポイントです。

ーAIの価値は何でしょうか?
まず、作業を短時間かつ正確に処理してくれることで、人の負荷が減るという側面があります。例えば工場での不良品検出などが想像しやすいと思いますが、人が1つ1つ確認するより、カメラの画像からAIで識別した方が遥かに時間を短縮できます。その上、非常に高い正確性を持ち、人件費も削減することができるので、企業からすればメリットが大きいでしょう。
もう一つ、個人的に重要だと思うのは、AIを活用することで得られるきっかけ作りです。これはAIによる判定結果そのものではなく、その後の人間の行動に真の価値があると考えています。アイデアを出すだけではなく、行動に移すことで価値が生まれると言われますが、これはまさにその通りです。大量のデータに基づいた結果をもとに、どのように行動に移すかが重要だということです。

具体的な事例として、私たちが開発しているMCI(軽度認知障害)の早期スクリーニングAIについてお話しします。MCIは認知症予備軍の状態を示し、早期発見することで一定割合の人が回復するとされています。しかし、MCIの状態の人は健常者との違いが分かりにくく、見つけることが困難です。血液検査や脳のMRI画像で識別できる可能性はありますが、病院に行かない限り分からない状況です。そして、病院に行く時点では既に症状が進行していることが多いと考えられます。
そこで、私たちは位置情報や睡眠情報など日常的に取得できるデータから、認知機能低下の兆候を早期検知できるAIの開発に取り組んでいます。判定結果の正確性は重要ですが、早い段階で改善や回復のモチベーションを作ることにも価値があります。運動習慣や病院での早期検査へ繋げられなければ、高精度のAIは意味を持たなくなります。
ユーザー体験やアプリケーション設計など、工夫の余地はAI開発の外側にも存在します。最近では、AIの説明可能性の技術が発展し、判定結果とともに結果の説明を提供できます。これにより、納得感や信頼感を得て、ユーザーが行動に移すことが期待できます。AIの価値そのものよりも、活用することで繋がる価値を最大化する仕組み作りを意識することが重要です。

日本のAIの社会実装を前進させるには、AI人材を増やすことが重要


ー日本のAIの社会実装における課題は、どのようなものがあるのでしょうか?
AI技術はビジネスや社会課題に浸透してきていますが、継続的な活用がまだ十分に進んでいないと感じられます。AI導入の過程では、実証実験を経て活用可能性を判断し、さらに検証を重ねて業務への適用を検討することが一般的です。しかし、実証実験の段階でプロジェクトが終了したり、作成されたAIが使われないことがしばしばあります。そのようなケースでは、活用目的が曖昧であり、最終的な活用イメージが見失われていることが多いです。これはプロジェクトが長続きせず、業務への価値を生み出すどころか、時間やコストの負担にしかなりません。

ー継続的なAI活用が進んでいない原因は何なのでしょうか?
様々な原因はあると思いますが、AI人材が不足していることも大きく関連しているでしょう。ここで言うAI人材とは、AIの基本知識があり、おおよその実現可能性を理解できること、そして業務での活用イメージができる人を指します。AI人材が増えることで、ユーザーと開発者とのコミュニケーションに生じるギャップがより小さくなっていくと思います。私は、ただユーザーの要望に応じて開発するだけでなく、AIに関しては開発者に一任するのではなく、共創的なマインドが重要だと考えています。

技術者もビジネス視点を持ち、本当に役立つものを作る


ーAI開発者が陥りがちな罠はありますか?
AI開発では、大きくビジネス、データサイエンス、エンジニアリングの3つの視点が求められます。大まかに言うと、ビジネスは顧客課題に対し、解決策を提示するコンサルティングスキル、データサイエンスは統計学や機械学習の理論に基づき分析の仮説・検証をしていく研究スキル、エンジニアリングはクラウドやプログラミングを駆使してIT開発するスキルです。
開発者は特にビジネス視点を見落としがちかもしれません。立場上、データサイエンスとエンジニアリングに焦点を当て、高品質なアウトプットを作成したいと考えますが、ビジネス視点を意識せずに進めると視野が狭くなり、本来の価値を見失うことがあります。たとえ高品質なAIを開発しても、目的に合致しない場合や業務への適用が難しい場合、それは役に立たないものとなってしまいます。
AIを業務にどのように組み込むか、継続的な利用が現実的か、誰に役立つのか、またAIが適切な解決策であるかどうかを考慮しながら取り組むことが重要です。テクノロジーは手段に過ぎず、ビジネスの目標達成や社会課題解決への意識が実装において不可欠です。もちろん最新技術のキャッチアップや日々の学習も大切にしています。

ー技術者もビジネス視点を持つことが重要なのですね。
ビジネス現場とデータサイエンティストやAIエンジニアの技術者の架け橋を担う人のことを、ビジネストランスレータと呼ばれています。彼らは業務と技術の双方を理解し、プロジェクトを円滑に進めるためのビジネス領域を担当します。
個人的には、この架け橋の役割は技術者自身も担うべきだと考えます。現在は、BIツールや機械学習の一般的なフローを自動化するAutoMLなどが充実しています。もちろん、これらのツールだけでは対応できないケースも多いですが、単純な定型的な分析ができるだけでは、技術者としての資質が不十分だと思います。今後は、より高度な知識を基に複雑な分析を行い、さらにコンサルティング能力も備えた専門家が求められると考えられます。

ー具体的に仕事で意識していることを教えてください。
プロジェクトにおいて、分析や開発は中心的な要素であるものの、その前後のプロセスにも積極的に取り組んでいます。
イメージを具体化することが重要であると考えるため、事業開発メンバーと共に初期段階から参画し、提案やプロジェクトの進め方を検討しています。プロジェクトには期間的な節目が存在しますが、分析や開発は実際には終わりがなく、常にアップデートし続けるものです。そのため、AIモデルの再構築を自動的に行う仕組みや、将来のシステム改修を見据えた開発にも重要性を認識し、取り組んでいます。
先述の通り、一部のユーザーにとってAIは単なる機能に過ぎません。活用によるメリットを考えるのはもちろんのこと、既存のオペレーションを大幅に変更することや、手間がかかることはできるだけ避けることが非常に重要です。
そのため、ユーザーの利便性を最優先に考慮して取り組んでいます。

ー最後に、横山さんが今後作ってみたいAIは何ですか?
ちょっと変態かもしれないですが、私自身、歯に興味があって(笑)
最近の研究で、歯周病が認知症リスクと関連していることが分かっており、歯の健康を考慮したMCI・認知症解析も興味深いアプローチだと思います。作ってみたいAIと言うよりは、多様な社会課題に対して有益な手段としてAIを浸透させることで、「少しだけ優しい世界」を創っていくことにモチベーションが湧きますね。

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