日本最大の砂丘は猿ヶ森砂丘ではない #1
みなさんはじめまして、地図ねこです!
今回の記事では、「日本最大の砂丘」について調べてみました!!
突然ですがみなさんは、「日本最大の砂丘」がどこか知っていますか???
「鳥取砂丘!」と答えた方、残念ながら不正解です!!!!
もっとも、性格の悪い(失礼)読者の皆様方は、「そうじゃないんだよね〜」とニヤニヤしていらっしゃるかもしれませんね…………
それでは、日本最大の砂丘が一体どこなのか、 Google 先生に聞いてみましょう!!!!!
なんと、鳥取砂丘の大きさは国内で二番目で、面積が日本一なのは青森県の猿ヶ森砂丘でした!!!!!!
さらに調べてみると、猿ヶ森砂丘の面積は約 15,000 ha で、鳥取砂丘の面積の約 27 倍もあるらしいんです!!!!!!!
ただ、こんなに面積の広い猿ヶ森砂丘ですが、その大部分が防衛装備庁下北試験場の敷地内となっており、一般人は立ち入れないようです。
一般的な知名度が低いのにも理由があったんですね!!!!!!!!
いかがでしたか?
今回は、日本最大の砂丘は鳥取砂丘ではなく猿ヶ森砂丘ですが、一般的にはあまり知られていないということがわかりました!!!!!!!!!
それではまた、どこかでお会いしましょう!!!!!!!!!!
……ん?
……というわけで、茶番はここまで。
これ以降は、 10 年以上インターネットの「常識」とされてきた「日本最大の砂丘は猿ヶ森砂丘である」という雑学に対する、地形学を学ぶひねくれた大学生による、半ば自己満足的な反論の時間となります。
暇な方はどうぞ読んでやってください。
前提:「砂丘」とは何か?
日本人の「砂丘」に対するリテラシーは著しく低い。
「日本最大の砂丘は?」というような話題が大好きな割に、「じゃあ砂丘ってなに?」と問われれば、「あれでしょ?あの、砂漠のちっちゃいやつというか、砂浜のでかいやつというか……」といった、非常に要領を得ない答えしか返ってこない。
これではいくら「日本最大の砂丘は?」という問いに対する正確な答えを述べたところで、まるで意味がない。
そのため本稿では、すべての前提となる「砂丘とは何か?」という話から始めねばならない。
ただ、少々本題から外れた話ではあるので、時間に追われた現代社会を生きているという読者諸賢には、この部分についてはまるまる飛ばして、 #2 へ進んでもらっても構わない。
砂丘とは「地形」である
砂丘とは、例えるならば砂州や砂嘴などと同じ、地形の一種である。
砂丘が砂州や砂嘴と大きく違う点は、砂州や砂嘴が主に波浪によって形成される地形であるのに対し、砂丘は風の作用によって形成される地形であるという点である。
では、いかにして風が砂丘を形成するのか。
一般に、砕屑物(礫、砂、泥など)の風による運搬形態には 2 種類がある。
浮流、掃流である。
また、掃流の中でも、砕屑物は転動、滑動、そして跳動などの運搬形態を示す。
そして、この運搬過程において砂丘は形成される。
砕屑物がこれらの運搬形態のうちどの運搬形態を示すかは、その時の風の強さと砕屑物の粒径によって決まるのだが、以下では簡単のため砕屑物の粒径のみに着目して話を進める。
一般に、砕屑物の中でも最も運搬されやすいのは砂〜シルト(粒径の粗い泥)である。
その中でも、主にシルトは粒径が細かいために、風を受けると浮流によって長い距離を運搬されることが多い。
これがいわゆるレス(風塵)であり、日本に毎春もたらされる黄砂(注1)や、関東周辺に厚く堆積する関東ローム層(注2)がレスの代表例として挙げられる。
一方で、砂はどのような挙動を示すのかといえば、風を受けると掃流によって運搬される。
さらに、砂の中でも粒径の粗いものは主に転動や滑動、細かいものは主に跳動によって運搬される。
これらの運搬形態が砂丘を形成するのだが、その中でも特に重要なのが跳動である。
つまり砂丘とは、跳動しやすい砕屑物=主に大量の細砂が存在する場所に発達する地形であると言うことができる。
注1:粒径的には「砂」ではない、もっと細かいものが多いのだが……
注2:富士山などの噴火によって直接もたらされた火山灰ではないことに留意。詳しくは火山学者の早川由紀夫先生のブログをご参照ください。
砂丘とは「砂漠」ではない
砂丘と砂漠はまったく別の概念である。
ただ、砂丘が大規模に発達する場所は主に砂漠(砂砂漠)周辺に限定される。
前の項でも述べた通り、砂丘の形成には大量の細砂が必要であるのだが、砂丘の形成に必要な条件はこれだけではない。
砂丘が形成されるには、その細砂が乾燥していて、植生に覆われていないなどの条件も重要である。
多くの湿潤地帯、特に日本などでは、この条件を満たしていないために大規模な砂丘が形成あるいは移動をしないことが多い。
これは、風の地形形成作用に対して、水の地形形成作用が卓越しているためと言うこともできる。
これを逆に考えると、水の地形形成作用が弱いところ、すなわち砂漠においては、風の地形形成作用が、水の地形形成作用に卓越するため、大規模な砂丘が形成されやすいと言うことができる。
なお、ここで留意しておくべき点としては、「乾燥していて、植生に覆われていない」というのはあくまで砂丘が形成されるための条件であり、一度形成された砂丘が砂丘であり続けるための条件ではないということだ。
繰り返すが、砂丘とは地形の一種である。
一度「砂丘」という地形が形成されてしまえば、草が生えようが、木が生えようが、畑になろうが、家が建とうが、砂丘は砂丘である。
砂丘とは「砂浜」ではない
砂丘と砂浜はまったく別の概念である。
ただ、砂漠でない土地においては、砂丘が形成される場所は主に砂浜周辺に限定される。
前の項では、砂丘が形成されるためには「大量の細砂が存在し、かつそれが乾燥していて、植生に覆われていない」という条件が必要だと書いた。
そして、「日本のような湿潤地帯においては、この条件を満たしていないために大規模な砂丘が形成されないことが多い」とも書いた。
それでは、日本にはまったく砂丘が存在しないのか?答えは No である。
前述の通り、日本のような湿潤地帯において卓越する地形形成要素は水である。
水も砕屑物を侵食し、運搬し、そして堆積させる。
このとき水は、「川」であったり、「波(注3)」であったりと様々な姿を見せる。
そして、このような営みの結果として、局地的に細砂が大量に堆積する場所が現れる。そのひとつが砂浜海岸である(注4)。
そして、海水準変動や、人為的な土砂流出などのイベントに伴い、「乾燥していて、植生に覆われていない」という条件が一時的にでも満たされたとき、砂丘が形成される。
このようにして砂浜海岸に形成される砂丘を海岸砂丘という。
日本における海岸砂丘は、特に日本海側においてよく発達する。
これは、冬季の北西季節風が砂丘の形成に大きく寄与しているからである。
実際に日本海側では、有名な鳥取砂丘だけでなく、新潟砂丘や庄内砂丘など、広めの海岸平野にはたいてい砂丘がある。
そして、たいてい飛砂を防ぐために植林が行われているか、砂丘地農業が行われている(注5)か、住宅地になっている(注6)。もちろんその他の土地利用も見られる(注7)。
ただ、前述の通り、土地利用のいかんに関わらず、これらはすべて地形としては砂丘である。
むしろ、裸地の状態を保っている鳥取砂丘の一部が日本の砂丘としては稀なのであり、これこそが鳥取砂丘が「日本一のスナバ」たる所以なのである。
注3:あくまで物理現象としての「波」が伝達するのはその波動のみでありその媒質(ここでは水)ではないのだが、海や湖などの場合、「砕破帯」と呼ばれる一定以上の浅瀬においては波高が高くなりすぎるために波が崩れ、波が水を輸送するという現象が起こる。そして、海岸線に対して斜めに入射する砕波によって、海岸線と並行な正味の水の流れが引き起こされる。これが沿岸流である。これだけではなんのこっちゃわからんという人が多いと思うので、詳しくは「沿岸漂砂」とかでググっていただきたい。ちなみに、日本語の文献ではよく砂州の形成の話なんかで「波と沿岸流によって」とか書かれることがあるが、前述の通り沿岸流を引き起こすのは波なので、あんまりいい書き方ではないんじゃないのと筆者は思っている。可能であれば、英語版 Wikipedia なども参照してみてほしい。
注4:河川の作用によって大量の細砂が堆積する場所もある。大河川沿いの自然堤防である。日本においては、太平洋側・フィリピン海側の大河川の流域の自然堤防上に「河畔砂丘」と呼ばれる砂丘が形成されることがあるが、ここで河畔砂丘について書き始めるとあまりに長くなってしまうために割愛。いつかまた別記事で書きたい。
注5:メロンとか育てられがち。
注6:筆者は新潟を「坂の街」と呼んでいるらしい。
注7:ちなみに、鳥取砂丘コナン空港は砂丘を切り崩して作られているため、なんとも皮肉なネーミングとなっている。あと、湖山池の北岸にあるため滋賀県民的感覚からすれば「湖北」であり、「湖南」ではない。失敬。
さて、本当はここから本稿の本論である猿ヶ森砂丘についての話をしていこうと思ったのだが、前置きが少々長くなりすぎてしまったため、今回はここまでとする。
ここまでじっくり読んでいただいた方も、読んだけどなんのこっちゃよくわからんかったという方も、これに懲りずに #2 へとお進みいただければ幸いである。
地図ねこ