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短編小説 自由と鎖

 まるで大河のようだと思った。

 それまで……今まで見てきた光景のそれは何倍だろう?
 自分自身の存在がちっぽけに見える。
 呑まれないように気を引き締める。
 しかし、慣れない動きに思うように動けない。
 どこから現れたのだろうか。

 むせかえる。

 知らず知らずのうちに体が拒否反応を起こしている。
 そんな自分の手を引っ張る者がいる。
 視線を追うと、少し前から組んでいる相棒がいた。
 彼の存在すら忘れるほど、自分は放心していたのだろう。
 相棒は少し呆れたような顔をしていた。

 仕方ないではないか。

 今まで大陸の奥地、辺境と言えるような土地に住んでいたのだ。
 こんな、こんな……
 道を埋め尽くすような人混みなど見たことがあるはずがない。
 それを急に見せられ、うまく動けというのが無理な話なんだ。
 相棒にそれを伝えると、笑われた。

 笑われることなのだろうか?

 少しむっとなったが、相手は自分よりも経験者だ。
 彼がいたから、この前の仕事もなんとかなった。
 改めて自分自身のことがわかった。
 旅に出てしばらく経ち、それなりに仕事をこなせるようになったと思っていた。
 でも、世の中はそんなに甘くはない。
 だからこそ、全てが修練なのだと、相棒は言ってくれた。
 色々な所をふらふらと旅をしてきたが、国の首都というのはなぜか気が引けて来たことはなかった。
 此所を見ると,確かに世界が変わる。
 でも、即座にここは自分の居場所ではないと感じる。
 ここにいると見えない鎖に絡み取られる。
 そんな気がする。

 だから、僕は風を求める。

 ここも通過点だ。
 僕はどこまでもどこまでも赴くまま歩いて行く。
 独りが二人になった。
 風と戯れる幅が増えた。
 これからもっともっと戯れる機会が増えるだろう。

 風はいつだって自由だ。

 僕らはどこまでも自由に飛んでいける……

 END

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