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VRはホームレスへの共感を喚起できるか(論文メモ)

VRの中での経験が人の認知や行動にどのような影響を与えるのか。その影響はどう測れるのか。
今回読んだ論文は以下のとおり。間違った解釈があるかもしれないので注意。
Building long-term empathy: A large-scale comparison of traditional and virtual reality perspective-taking (Fernanda Herrera et al., 2018)

概要

共感を喚起する手段(ホームレスの境遇を15分程度体験するシナリオ)を比較し、VRの影響を検討した。

実験1.喚起された共感の定着の長さについて、既存手法(記述された物語を読む)とVR体験を比較
→ 体験直後はVRの方が共感と苦悩を強く喚起したが、時が経つにつれその優位は薄れ、双方とも同等の共感を示した。VRの方が既存手法より長期間ホームレスへの共感と支援の姿勢を示した。

実験2.没入感が共感の喚起にどの程度関与しているかについて、異なる没入条件(事実に基づく情報提示、既存手法、平面ディスプレイでの体験、VR体験)を比較
→ 事実に基づく情報提示はVR体験よりも共感の度合いが少なかったが、各条件間で統計的な有意差は示されなかった。

新規性

実験1にて、喚起された共感がどれくらい持続するか、8週間に渡って経時的なサーベイデータを得た点。

アプローチのキモ

異なる条件で提示されるシナリオの質を一定に保つこと。
(一人称視点での描写、ホームレスの立場になって考えるという前提を事前に実験参加者に説明するなど)
※実験2の事実情報の提示を除く

有効性の検証方法

実験1:
シナリオを異なる条件で提示。
プレ、ポスト、フォローアップサーベイによる複数指標の数値の差異と経時的変化を分析。

実験2:
シナリオを異なる条件で提示。
プレ、ポストサーベイによる複数指標の数値の差異を分析。

議論・リミテーション

  • プレゼンス(社会的、自己、空間的存在感)の知覚と共感との関連を調べることが必要。

  • ホームレスへの寄付について訪ねた項目ではすべての条件において最大の金額が選ばれた。つまり選択肢が十分なレンジを持っていなかったと考えられる。

  • 15分の実験時間は没入体験の影響を調べるには短すぎる可能性がある。

  • VR空間内での自然なインタラクションの実現のためにはまだ技術的制約が多い。

  • 共感とホームレスに対するふるまいの変化との因果関係についての実験が必要(社会的要請やアウェアネスといった、共感以外の要素の影響を排除する必要性)。

次に読む論文

事前・事後の質問紙にとどまらず、VR空間内での行動・意思決定・コミュニケーションのログを定量的に分析する事例を検索中。。。

※要点のまとめ方については、筑波大学 落合陽一先生の要領を参考にさせていただいた。
https://www.slideshare.net/Ochyai/1-ftma15