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香川真司と三浦知良、二人が明かすお互いへのリスペクト #3 心が震えるか、否か。

欧州で10年、戦ってきた。重圧にさらされ、迷い悩んだときに、大切にしてきた心の指針がある……。日本代表で長年、背番号10を背負い、欧州主要リーグで日本人選手ナンバーワンの実績を挙げてきた香川真司。最近ではベルギー1部リーグ・シントトロイデンへの移籍が話題となり、さらなる活躍が期待されています。そんな彼の初著書『心が震えるか、否か。』は、サッカーファンならずともためになる、深い人生哲学がつまった好著。一部を抜粋してご紹介します。

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兄であり、父でもあるカズ

2011年のアジアカップ・カタール大会のグループリーグのシリア戦で、本田圭佑のPKが決勝ゴールとなり、2-1で日本が勝ったあとのこと。香川に「今度、PKを蹴るチャンスがあったら、蹴ってほしい」とLINEでメッセージを送っている。

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「他の選手を押しのけて蹴ってほしいということではなくて、大事なときにPKを蹴るくらいの存在感のある選手になってくれたらという気持ちをこめて送ったのです」

香川が活躍したときだけではなく、怪我をしたとき、悩んでいるように感じられるときにも、カズはメッセージを送ることにしている。

今では日本人選手がヨーロッパでプレーするのが当たり前になったが、その道を切り開いたカズの功績に異論の余地はない。イタリアのセリエAが、紛れもなく世界最高峰のリーグだった時代にその門を叩いたのだから。

そんな経験があるからこそ、香川への世間の評価については少しもどかしく感じることがある。

「ユナイテッドでの真司の評価については、色々なことを言う人がいるじゃないですか? 1年目が終わったあとにファーガソン監督がいなくなり、上手くいかなくなった、と。

ただ、長年務めていた監督がいなくなってからも、それまでと同じように結果を残し続けるというのは、サッカーの世界では本当に難しいものなのです。それに真司はユナイテッドでは2年間戦って、最初のシーズンには優勝して、ハットトリックもしていますよね。そう考えたら、大成功だと思いませんか?

ひょっとしたら真司が僕くらいの年齢になったときに、もっと評価されているのかもしれないです。ユナイテッドのような、世界の本当のトップのすごさや、そこで優勝する喜びを知っているのは、真司しかいないわけですよね。だからこそ、そういうものをこれからもみんなに伝えていってほしいですよね」

パイオニアであり、あのときのマンチェスターの空気を香川とともに吸った経験があるからこそ、カズは強調する。

「これからヨーロッパへ行く選手はたくさん出てくると思います。でも、真司はドルトムント時代から含めて、ヨーロッパのトップリーグで3年続けて優勝しました。そんな日本人選手は、これから20年たっても、出てこないかもしれない。そのくらいの偉業だと思いますよ。

そして、彼があのレベルに到達したからこそ、他の選手たちがそこを目標に向かっていける。それは本当に大きな功績なのです」

カズは、香川のことを「かわいい弟」と表現する。

一方で、香川にとっては、兄のように自分をかわいがってくれる存在でありながらも、ときには父のように道を示してくれる存在でもある。

このあとに出てくることになるが、カズから聞かされたことが、知らず知らずのうちに、将来の自分の行動につながっていくことがあるのだから。

〈FROM SHINJI〉

僕は年上のサッカー選手に「先輩、先輩」と言って、無邪気にすり寄っていくタイプではない。かわいげがないと思われるかもしれないけど。

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でも、カズさんだけは特別だ

小学1年生の僕が初めて、“生で”見たカズさんは、サングラスをかけて、スーツをピシッと着こなしていた。ただ、胸元のボタンはあけてあって。カッコイイと思いつつ、それを上回る、ものすごいインパクトを感じたけど(笑)。

もちろん、そうしたファッションだけにひかれていたわけではない。サッカー少年だった当時の僕にとって、憧れであり、お手本となる存在だった。

中学に上がるタイミングでFCみやぎに入り、ドリブルを磨くような指導を受けて、僕は成長することができた。ただ、ドリブルの喜びの原体験を与えてくれたのは、カズさんだった。TVでカズさんのドリブルを何度も見返しては、必死になってマネをする。それが僕の小学校のときのサッカーの記憶の多くを占めているくらいだ。

ユニフォームを交換しようと自ら申し出ることも基本的にはない。モノに執着がないからだ。僕の方から「ユニフォームが欲しいです」と試合前から申し出たのは、あの試合だけだ。もっとも、「自分のユニフォームをカズさんにあげても困るだろう」と考えて、“あのときは”ユニフォームをありがたく受け取っただけだったけど……。

僕はあまり過去を振り返ることもないし、感慨にふけることもない。でも、10年以上もプロサッカー選手としてプレーしているなかで、カズさんと今でもこまめに連絡させてもらえているのは幸せなことだ。

50歳を超えても、僕からサッカーについての刺激を得ようとしてくれるのがカズさんだ。その裏にはカズさんなりの優しさや、決して偉そうに振る舞うことのない人間性がある。サッカー選手としてのプロフェッショナリズムを考えたとき、最高のお手本なのだ。

だから、僕はことあるごとに、カズさんと連絡をとらせてもらうし、日本にいるときには会いに行かせてもらう。

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心が震えるか、否か。 香川真司

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