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あなたは答えられるか?「クリティカル・シンキング」を試す9つの質問 #3 35歳の教科書

自分にしかできない仕事をやっているか。組織に埋没していないか。定年後に自分の居場所はあるか……。残業をしても給料は上がらず、ポジティブシンキングだけでも乗り切れない時代に、どう働き、生きるべきか。リクルートフェロー、杉並区立和田中学校校長などを歴任した藤原和博さんの『35歳の教科書 今から始める戦略的人生計画』より、そのヒントをいくつかご紹介しましょう。

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「記憶力」より大切なもの

新しい大人の条件として、演じる力と公共リテラシーを挙げました。最後の3番目は「クリティカル・シンキング」です。

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突然ですが、質問です。受験勉強で最も大切なチカラはなんでしょうか?

多くの人が「記憶力」と答えるでしょう。テスト自体が、「どれだけ正解を覚え、再現できるか」を問う形態になっているからです。

ただ、難関大学や司法試験に合格した人に話を聞くと、決まって「出題可能性のある範囲を網羅してすべてを覚えることなんて不可能なので、記憶力とは違う能力が必要だ」と指摘されるのです。

この意見には私も共感できます。

東京大学の二次試験で出題された地理の第一問。ただの四角い枠が書いてあり「アフリカの海岸線の地図を大まかに描き、そこに赤道を描き入れなさい」というものでした。

その後に「赤道近くにあるタンザニアが抱える今日的な問題を記述せよ」と続くのですが、それぞれの国の産物や貿易品目を覚えていたとしても、アフリカの全体像に思いを馳せる経験がなければ、地図はうまく描けません。これは「記憶力」で勝負できる問題ではなく、受験生がいかに現実世界とつながった「世界観」を持っているかを問う問題でした。

私は試験の準備として、過去10年間に「頻繁に採り上げられた国」と「まだ出題されていない国」を分析し、アフリカにヤマをはって臨んだので、この問題をなんなくクリアすることができました。

私にとって受験勉強に必要だったチカラは「記憶力」ではなく、「出題者が何を問いかけてくるかを推理するチカラ」でした。

では、どうしたら出題者の意図を読むチカラが強まるのでしょうか。それは常に問いかけられた問題に疑問を持ち、出題者と対話する癖をつけることです。

そのための訓練として有効なのが、テレビや新聞で報道されるニュースを批判的に観ることです。

「批判的」と言うと、単に文句をつけたり、反対したりするイメージが強いかもしれません。しかし、本来「批判」とは「人物・行為・判断・学説・作品などの価値・能力・正当性・妥当性などを評価すること」(広辞苑)という意味です。

自分の頭で考えて、対象について主体的な意見を持つことと言い換えてもいいでしょう。英語の「critical」にも「鑑識眼がある」という意味が含まれています。

あれっ? ちょっと待てよ。今のコメントはおかしいんじゃないの?

とテレビのキャスターやコメンテーターの言説に疑問を持つ態度が大事。決して鵜呑みにしてはいけません。

あなたはこの質問に答えられるか?

和田中の〔よのなか〕科では、そうしたクリティカル・シンキングをフル活用しなければならないテーマが提示され、ブレーンストーミングやディベートが繰り返されます。

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たとえば、

「ハンバーガー店をどこに出店すれば儲かる店になるか?」

「自分が首相だったら大きな政府と小さな政府、どちらを目指すか」

「子供に一人部屋(個室)は必要か?」

「親だったら自分の子のクローンを作ることを是とするか」

といったテーマを、保護者や地域の大人たちも交えて議論します。

また、和田中では、1年生の時から次のような問いかけに対して意見文を書くことを義務づけています

「中学生に携帯電話は必要ではない」

「中学校に制服は必要ない」

「電車やバスに優先席は必要ない」

「親しくなった先輩には敬語を使う必要はない」

「ボランティアは自分のためにするものだ」

「失敗や挫折はすぐに忘れたほうがよい」

「中学生はもう大人である」

それぞれに賛成か反対かを表明し、その理由を述べさせます。これを3年間で50回は書かせられるのです。そうした訓練を経て卒業間際に試されるのは、さながら「クリティカル・シンキング検定試験」のような問題です。

「ハンバーガーはこれから安くなるか? 高くなるか? その理由とともに記せ」

「ゴムをより高く売ろうとしたら、どんな工夫をするか?」

「あなたの学校に付加価値をつけるとしたら、校長として何をするか?」

「自転車放置問題の解決策を自分の言葉で記せ」

「人を差別するということがどうして起こるのか。イジメとの関係で述べよ」

「10歳の少年が殺人を犯した。あなたが裁判員だったら何を質問するか」

「自分を殺す行為は是か非か。自殺の是非を記述せよ」

「人間にとって宗教とは何か、記せ」

「経済的な自立の他に、あなたにはどんな自立の道があるか、自らの学校での経験をもとに述べよ」

あなたなら、これらの問いにどのように答えるでしょうか。

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35歳の教科書 今から始める戦略的人生計画 藤原和博

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