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科学的に分析!「繊細さん」とは「刺激に対する感度が極端に高い人」のこと #2 スピリチュアルズ

人間の行動はすべて、あなたの知らない無意識(スピリチュアル)が決定している……。これを聞いて、驚く人も多いでしょう。ベストセラー『言ってはいけない』や『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などで知られる橘玲さんの近刊『スピリチュアルズ――「わたし」の謎』は、脳科学や心理学の最新知見をもとに、自分とは、社会とは、人類とは何かについて迫った意欲作。読みごたえたっぷりの本書から、一部をご紹介します。

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「繊細さん」は日本人に多い

内気(シャイ)というのは、次に述べる「神経症傾向」にかかわるパーソナリティで、内向的なひとが内気だとは限らない。

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内向的なひとは強い刺激が苦手で、パーティのような社交の場は好まないかもしれないが、だからといって人間嫌いだったり、他人に興味がなかったりするわけではなく、適度な刺激を与えてくれる相手とはむしろ積極的につき合いたいと思うだろう。重要なのは対象の好き嫌いではなく、あくまでも刺激の強度なのだ。

刺激に対して感度が極端に高いひとをHSP(Highly Sensitive Person)といい、カウンセラーの武田友紀さんはこれに「繊細さん」という卓抜な日本語をあてた。

武田さんによると、ひとによって「繊細」の対象は異なり、視覚(スーパーに入るとモノやラベルがいちどに目に飛び込んできて目が回る)、聴覚(ベッドに入ってもお風呂の換気扇の音が気になる)、触覚(苦手なひととすれ違うと電流が走ったように身体がピリッとする)、嗅覚(満員電車の臭いがダメ)、味覚(添加物の多い食べ物は舌がピリピリする)などの「個性」があるという。

五感は(相対的に)独立していて、内向的だからといってすべての感覚が一様に敏感になるわけではないようだ。

甲状腺疾患の治療で、プロピルチオウラシル(PROP)と呼ばれる化合物に浸した小さな紙片を被験者の舌の上に置くことがある。PROPに対する反応には個人差があり、苦みや味覚刺激全般についての敏感さを示す遺伝学上優れた指標とされている。

少量のPROPが舌に触れだけで苦痛なほど苦く感じるのは「スーパーテイスター」で、なにも感じないのが「ノンテイスター」だ。その中間で、苦みを感じるもののなんとか我慢できるのは「テイスター」と呼ばれる。

味覚にはヒト集団によるちがいがあり、白人では約60%がテイスター、40%がノンテイスターかスーパーテイスターだが、アフリカ系やアジア系はテイスターやノンテイスターよりスーパーテイスターがずっと多い。野菜が苦くて食べられないのは「スーパーテイスター」である可能性が高い。

遺伝学的には、2つの顕性遺伝子(PAV/PAV)が第五染色体上にあると、スーパーテイスターになることがある。そのアレル(対立遺伝子)である潜性遺伝子が2つそろう(AVI/AVI)とノンテイスターになる。テイスターはPAVとAVIの組み合わせだ。

スーパーテイスターは体質的に味蕾を多くもち、それ以外にも味覚を識別する能力に恵まれている。和食が「繊細」なのは、日本人がヒト集団としてスーパーテイスターが多いことから説明できるかもしれない。

スーパーテイスターは味覚に優れているだけでなく、テイスターやノンテイスターよりも嫌悪刺激に敏感だ。これは日本人がきれい好きなことと関係するかもしれないが、「隣人から物を盗む」といった道徳的な嫌悪とは関連性がない。苦みの敏感度は、道徳的な嫌悪感ではなく身体的な嫌悪感と強く関連しているようだ。

これは一例だが、五感の敏感性は今後、遺伝学的・生物学的に解明されていくことになるだろう。

「繊細さん」に向いている仕事は?

過度の敏感性は日常生活を困難にするかもしれないが、逆に職業上のアドバンテージになることもある。聴覚が敏感なひと(絶対音感)は音楽家や音響技師として、味覚が敏感なひと(絶対味覚)はシェフや料理評論家として活躍している

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政治家や大企業の経営者は外向的なひとに多いが、内向的なひとが権力とは無縁というわけでもない。内向的だとあまり欲望に影響されないため、周囲から「超然としている」と思われ、そのことによって集団のなかで大きなちからをもつこともある。

こういう「世捨て人タイプ」は古来、仙人や聖人として崇められた。表舞台には出ないものの大きな権力をもつフィクサーも、内向性パーソナリティの持ち主かもしれない

マウスを遺伝子操作してドーパミン活動の有効レベルを高めると、異常に興奮し、空っぽのケージのなかを狂ったように走り回る。一方、ドーパミンをつくる能力を欠くマウスは、人工のドーパミン前駆物質を注射されないかぎり、空腹でも食べ物や飲みものに近づこうともしない。

現代社会では外向的なパーソナリティの方が有利に思えるが、極端に外向的だと依存症になる。ドーパミン濃度の低い内向的なパーソナリティは依存症になりにくいが、極端に内向的だと無快感症(アンヘドニア)と診断される。これは、「通常は快である事項に快を感じない状態」のことだ。

そう考えると、平均よりすこし外向的だったり、すこし内向的だったりするくらいがちょうどいいのかもしれない。

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スピリチュアルズ――「わたし」の謎 橘玲

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