花粉症、アトピー、関節リウマチ……アレルギーや自己免疫疾患にも「酪酸」が効く? #3 すごい酪酸菌
「腸内環境」は、私たちの健康に大きな影響を与えます。なかでも、「酪酸菌(らくさんきん)」を多く腸内に持っている人は、長生きであることがわかっています。さらに最新の研究では、新型コロナや花粉症にも驚きの効果をもたらすこともわかってきました。なぜ酪酸菌が免疫力を高めるのか? どうすれば悪玉菌を減らして酪酸菌を増やすことができるのか? 「腸のカリスマ」の異名をもつ消化器専門医・江田証先生の『すごい酪酸菌』より一部をご紹介します。
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アレルギーはもはや「国民病」
ここまで取り上げてきた感染症やがんは、免疫力の低下が招く病気ですが、反対に免疫の過剰反応が招く「アレルギー」や「自己免疫疾患」にも酪酸が役立つ可能性が示唆されています。
(写真:iStock.com/RyanKing999)
私たちがアレルギーと聞くと、真っ先に思い浮かべるのが「花粉症」ではないでしょうか。花粉によるアレルギー性鼻炎は、毎年、特に春になると発症。ひどい鼻水や鼻づまり、くしゃみに悩まされたり、苦しんだりする人が多く、国民病ともいわれています。これは免疫の反応が過剰になることで起こるアレルギー症状のひとつです。
そもそもアレルギーとは、花粉やほこり、食物や薬剤など、通常なら体に大きな害を与えることがない物質に対して、過剰な免疫反応が引き起こされることです。現在、日本人の約半分がなんらかのアレルギーを持つとされ、さらに年々増加傾向にあります。
酪酸には、そんなアレルギーが引き起こす症状も改善させる可能性があります。
まだ、マウスでの遺伝子解析の段階ですが、人間でも同様の可能性があることは十分考えられます。
難治性副鼻腔炎のひとつに「好酸球性副鼻腔炎」があります。治療としてステロイド剤の投与や手術がありますが、再発を繰り返すことが多いのが特徴です。そんな好酸球性副鼻腔炎にも、酪酸が効果がある可能性が報告されています。
好酸球性副鼻腔炎の患者さんから得た鼻ポリープに短鎖脂肪酸の酢酸、プロピオン酸、酪酸を投与したところ、酪酸が有意に炎症を抑制しました。
また、分泌が過剰になると次々と炎症反応を起こす炎症性サイトカインでも、酪酸を投与するとサイトカインを抑制できる可能性が明らかになったのです。
「酪酸」が糖尿病の発症を抑制する
免疫システムに異常が起こると、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し、攻撃してしまうことがあります。こうして起こる疾患が「自己免疫疾患」で、「1型糖尿病」や「関節リウマチ」「潰瘍性大腸炎」などが挙げられます。
(写真:iStock.com/metamorworks)
こうした自己免疫疾患の患者さんでは、健康な人にくらべて酪酸を作り出す酪酸菌の量が減少していることが報告されています。
そもそも糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が増え続ける病気です。
通常、糖質は分解されてブドウ糖に変わり、血液中のブドウ糖が増え、血糖値が上がります。すると、すい臓がインスリンを分泌し、ブドウ糖を肝臓や筋肉、脳に取り込み、血糖値が下がります。しかし、インスリンが十分分泌されなかったり、効きが悪かったりすると血糖値は上がってしまうのです。
糖尿病には、自己免疫疾患のひとつでインスリンを出す細胞が壊される「1型糖尿病」と、遺伝的な影響に肥満やストレスなどの生活習慣がかかわって発症する「2型糖尿病」があります。
自己免疫性糖尿病モデル動物(NODマウス)という、糖尿病モデルマウスを使った研究報告があります。糖尿病マウスは、生後20週、30週と歳をとってくると、自然に1型糖尿病を発症します。しかし、この糖尿病発症マウスに「クロストリジウム・ブチリカム」という酪酸菌を飲ませると、年齢を重ねても糖尿病にならなくなるのです。
すなわち、酪酸菌が腸内フローラの乱れ(ディスバイオーシス)を改善し、糖尿病を予防するのではないかと考えられています。つまり、酪酸菌は1型糖尿病の発症を抑えるということです。