かつては合法だった幻覚キノコで「精霊」に出会った
神の草・大麻で宇宙空間を体験、インドのビーチでLSDを一服、キノコの精霊と会話を交わす……。ノンフィクション作家、長吉秀夫さんの『不思議旅行案内 マリファナ・ミステリー・ツアー』は、自身の神秘体験を赤裸々につづったトリップ・エッセイ。ドラッグのみならず、音楽、舞踊、錬金術など、あらゆる神秘の核心に迫っています。知的好奇心が思わずうずく、本書の一部を抜粋してお届けします。
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都心のど真ん中でキノコパーティー
僕は、都内で行なわれたシロシベ・クベンシスを用いたキノコ・セレモニーに参加したことがある。ちなみに、幻覚性キノコの栽培や、個人的に食べることに関しては、現在も合法(編注:執筆当時)である。
ある秋のよく晴れた日曜日。僕は都内にあるセレモニー会場へ行った。会場は都心のど真ん中である青山の某所にあり、個人が所有している住居ビルの地下にある四十畳くらいのフローリングの地下室だった。
会場には、学生、主婦、サラリーマン、デッドヘッズ、精神科医など、三十人くらいの性別も年齢も様々な人々が集まっていた。
約束の時間がくると、スタッフ達がひとりひとりに面談し、その日の体調や経験の度合から、摂取するキノコの量を決めていく。僕は、最初に五グラム服用し、足りなかったら追加することになった。この量が多いのか少ないのか、見当がつかなかった。
乾燥し、粉末にされたシロシベ・クベンシスが紙コップに入れられ、全員に配られていく。お湯を注ぎどろどろにかき混ぜる。
スタッフが、諸注意事項を説明している。
「強い毒性や中毒性がないので安心してほしい」「個人差はあるが、約六~八時間、幻覚作用が持続されるので、その間、外出できないこと」「幻覚作用を中和するビタミンCのドリンクが用意されていること」などの簡単な諸注意が終わり、いよいよ体験することになった。
車座になり、スタッフの合図で一気に飲む。カビっぽくて、変な味。コップの底に残ったどろどろも、もったいないから全部かき出して食べる。あー、まずい~。からになったコップが回収されると、全員で手を繋ぎ、目を閉じて瞑想する。スタッフの声が聞こえる。
「心の中に、黄金をイメージして下さい。その黄金の波動によって、心と身体が癒されているところをイメージして下さい。そして、あなたを苦しめてきた概念に、感謝して下さい」
瞑想を始めてから、約二十分が経過した頃から、効果が現われてきたようだ。
目を閉じて黄金をイメージしていると、次第に金色の砂が、さらさらと粉雪のように降ってきた。僕は、降っている金の砂の美しさに感動し感謝しながら、もっと降れ、もっと降れと思っていた。
すると、金の砂がみるみる降り積もり、目の前が輝く黄金の光でいっぱいになった。と同時に、それが素晴らしい世界の精霊達との出会いの始まりだった。
「精霊」からアムリタをいただく
身体の内側から鳴る太鼓のビートとともに、左斜め上から、羽の生えた天使のようなものが、ゆっくりとコマ送りのような感じで近づいてきた。顔や身体は、モザイクのようにも見える。今まで見たこともない存在だ。
しかし、僕に敵意をもってはいないことを、即座に理解した。あっけにとられて、彼から目を離すことができない。右斜め上と左斜め下にも、同じようなのがいるのを感じる。
モザイクの天使。これがキノコの精霊なのか? と思いながらも、僕は彼らとの出会いに感動している。精霊は、にっこり微笑みながら、どんどん近づいてくる。そして、僕に手をさしのべる。手の先が、ジョウゴの注ぎ口のように伸びて、僕の唇に近づいてくる。
「えっ! 直接くるわけ?」
と思う間もなく、「ジョウゴ」から僕の口へ、直接に液体が流れ込み始めた。その液体がどんどん身体の中に溜まっていくそばから、僕はどんどん元気になっていく。
「この液体はアムリタ(聖水)か?」
と思っている間もなく、その液体はどんどん僕の身体を満たし、満タンになったとたんに、精霊はこちらに無言で問いかける。
「どうだい、気分は?」
僕はすぐに反応する。
「OK! バッチリだよ」
彼はそれを確認すると、親しみを込めて、
「じゃあな!」
といったような感じでクルリと向きを変えると、もと来たほうへと飛んでいった。と同時に、僕の魂も時間と空間を超えて旅を始めた。
僕はどうも、祭の真ん中にいるようだ。僕の近くにいる二人の精霊とともに、僕の魂も踊りまくり、リズムを感じ始めた。
「ものすごい! ものすごく楽しい!! ヴェリー・グッドじゃないッスか!」
周りは暗闇だが、どうも僕は森の中にいるらしい。光が見える。真っ暗な中、キラッキラッと何かが光る。どうも水晶のようだ。その時ふいに、僕は遠くに住んでいる友人のことを思い出した。まだ行ったことはないが、今僕は、彼の家の裏にある森の中にいるらしいことがわかった。僕はこの森に来ることができて、とてもうれしいと感じている。
自らの命の光を開いて、その光を宇宙へ贈ることと、逆に滔々と宇宙から供給される光の循環を、僕は感動の中で楽しんでいた。