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口下手なんて関係ない…ヤクザに学ぶコミュニケーションの極意

理論武装、いちゃもん、因縁、いいがかり、難クセ……。さまざまなテクニックを駆使する「ヤクザ」の交渉術は、意外や意外、ビジネスパーソンにも参考になる部分が多々ある。そのテクニックを豊富な実例とともに紹介するのが、裏社会の事情にくわしい、山平重樹さんの『ヤクザに学ぶ交渉術』だ。読めばこっそり試したくなる、そんな本書から一部をご紹介します。

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交渉ごとで真に大切なこと

それでは、掛けあいというのは、弁が立つ者、口の上手い者ほど有利で、口下手な者はダメということになるのだろうか。

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一見すると、それは真理のようにも見受けられるのだが、

「いや、必ずしもそうではない。だいたいヤクザ者に弁が立つ人間なんてあんまりいませんよ。逆に喋るのはまったく苦手で口下手という人のほうがはるかに多いですよ。ヤクザは昔からよけいなことは喋るもんじゃないと教えられてきて、それが代々この世界の伝統になってる。

いまは変わってきてるかも知れないけど、昔はヤクザ者でおしゃべりなヤツはバカにされるというか、貫禄を疑われた。とくに九州のほうじゃ、口の上手い人間は“アゴが立つ”といって、いまひとつ信用されないというふうにも聞く。

それに口下手なヤクザが、こと掛けあいとなったら、まるで別人になってね、相手を圧倒して一歩も引かないなんてケースはよくありますよ。ヤクザの世界じゃ、掛けあいと口の上手い、下手は、あまり関係がないんだね」(関東の組関係者)

それはたとえば、こと喧嘩の掛けあいとなったら天下一品、その右に出る者がいなかったといわれるほどすごかった“赤坂の天皇”こと住吉会の浜本政吉親分でも、普段は決して弁が達者ということはなかったという。

あるいはまったく無口で訥弁、おまけにこみいった話をするときにはつっかかってしまうようなヤクザ者が、掛けあいとなると、これが同一人物かと思われるくらい流暢な啖呵に変わってしまう者もいるというから不思議である。

「やっぱり掛けあいというのは、喋りの上手い下手じゃなくて、胆力、気合いでもあるし、なんでもそうだけど、場慣れでもあるんですよ。パッとすわった瞬間、威圧感じる男というのはいるんですよ。こりゃ、手ごわいな、と。

兵隊をたくさん連れてきてるからじゃなくて、その人間自体が場慣れしてるんですよ。弁の立つヤツ、口の達者なヤツというのは、関西の人間に多いんだけど、別に彼らが手ごわいとは思わないし、私はちゃんと彼らの攻略法も持ってるから」

とは関東の広域系三次団体組長だ。

相手にいかに喋らせるか

彼らはとくに二対八ぐらいの分の悪い掛けあいのときに出てくることが多く、得意の弁舌でまくしたて、二対八を五分五分にまでひっくり返そうと目論むのだという。しかも、八の分の悪い話にはいっさい触れず、自分たちの十のうちの二しか正当性のない話ばかり繰り返すことになる。

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「そやからな、この件はこうでっしゃろ。そしたらこうなりまんがな。わかりますやろ……」

云々とそのことを話し続けることになるという。

だいたい口が達者だと思ったら、相手にいいたいことをいわせるんです。黙って聞いておく。で、相手にあわせる。そう、そう、そうです、その通り、おたくのおっしゃる通りです、と。相手の周波数にも心理にもあわせる。こっちが口が上手い必要は少しもない。むしろ、聞き上手になってやる。相手にいかに喋らせるかということですよ」

要は相手と同じ土俵にあがらないということが肝心なのだ。

組長が続ける。

「あくまで十のうち二分のいい分しかないんだから、時間にして十分もない。壊れたレコードみたいにリピート、リピート。その二分をずっと喋り続けてるだけ。口の達者なヤツといいあいをしちゃダメ。こっちのちょっとした言葉のミステークで、あげ足とられるからね。関西系の場慣れしてるヤツは、そういうところ冷静に判断して、パッパッとあげ足とることばかり考えてますよ。だから、こっちは喋らずに相手にいわせる」

それでも、そうそう、その通り、おたくのいう通りです――なんてことを続けているうちに、さすがに相手も気がついて、

「ワリャア、おちょくってるのか!」

と怒りだす者も出てくるという。

そうなったらしめたもの、逆にこの組長のペースになるというから、前節のA組長と似ていよう。そのときこそ、ここぞとばかりにバーンと逆襲にうって出るというのだ。

「あんた、喧嘩しにきたのか、ゼニとりにきたのか、話しあいにきたのか、どっちなんだ。話しあいだっていうからオレはこうやってきてるんですよ。それを『おちょくってるのか!』なんていうんだったら、喧嘩売りにきたことになりますよ。だから、もうおたくは黙っていたほうがいいんじゃないの」

ここに至って、十のうち二分あった相手の理も、粉々にくだけ散ってしまうわけである。


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