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「心拍数が低い」と犯罪者になりやすい? その科学的根拠 #1 スピリチュアルズ

人間の行動はすべて、あなたの知らない無意識(スピリチュアル)が決定している……。これを聞いて、驚く人も多いでしょう。ベストセラー『言ってはいけない』や『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などで知られる橘玲さんの近刊『スピリチュアルズ――「わたし」の謎』は、脳科学や心理学の最新知見をもとに、自分とは、社会とは、人類とは何かについて迫った意欲作。読みごたえたっぷりの本書から、一部をご紹介します。

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男の犯罪者が多い理由も?

犯罪心理学者のあいだでは以前から、「反社会的な人間は心拍数(1分間の鼓動の回数)が低い」ことが知られていた。これは動物も同じで、攻撃的で支配的なウサギは、おとなしく従属的なウサギに比べて安静時心拍数が低い。

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さらに、ウサギの支配関係を実験的に操作すると、支配力(群れのなかでの地位)が上がるにつれて心拍数が下がる。これと同じ相関関係は、サルからマウスまで動物界で広く見られる。

人間でも、反社会的な学生は安静時心拍数やストレス時心拍数が低いとか、幼少時に測定した心拍数が、成人後の反社会的行動に結びつくなどの研究がある。心拍数の性差は早くも3歳時点で見られ、男子の心拍数は女子より1分間に6.1回少ない。

――男の犯罪者が女よりはるかに多いのは、この心拍数の性差が関係していると考える研究者もいる。

心拍数が低いと、なぜ攻撃的になったり、反社会的な行動をするようになるのか。この謎についての有力な説明が、「ひとには最適な心拍数のレベルがある」だ。

心拍数が生得的に低いと、つねになんらかの不快感を抱えていて、それを(無意識に)引き上げようとする。犯罪にはリスクがともなうからどきどきするが、このときの心拍数の上昇が「快感」になるというのだ。

よい方へ転ぶと成功に結びつく

この仮説を検証したのが、モーリシャス(インド洋に浮かぶ人口130万人あまりの小島)で行なわれた大規模研究だ。このプロジェクトでは、3歳の同齢集団1795人の心拍数と刺激追求度(おもちゃのある部屋でも母親から離れないか、なんのためらいもなくおもちゃで遊ぶか)が調べられ、その後の経過が20年以上にわたって観察された。

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その結果はというと、3歳時点で心拍数が低く刺激追求度が高かった子ども(上位15%)は、11歳になったときに「けんかをする」「人を殴る」「人を脅す」などの攻撃性が高かった。だがこれは、心拍数が低い子どもがみな非行に走るということではない。

この研究でもっとも心拍数が低く、最高レベルの刺激追求度を示した男の子は、成人すると盗み、暴行、強盗などの罪状で複数の有罪判決を受け、「人生は快楽と興奮を求める制限のないゲームだ」と研究者に述べた。

だが同じように心拍数が低く、刺激追求度が高かった女の子は「何でもためしてみよう、世界を探検しよう、みんなの前に積極的に出よう」と考え、その夢をミス・モーリシャスになることで実現した。

ここからわかるのは、覚醒度や心拍数の低い外向型は「リスク志向的」で、覚醒度や心拍数の高い内向型は「リスク回避的」だということだ。

リスクを好むパーソナリティはよい方に転ぶと大きな成功に結びつくが(ヴァージン・グループ創設者で冒険家のリチャード・ブランソンはその典型だろう)、悪い方に転ぶと犯罪者として一生を刑務所のなかで過ごすことになりかねない。

――覚醒剤のようなアッパー系のドラッグの使用にも、覚醒度や心拍数の生得的な低さが影響している可能性がある。

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スピリチュアルズ――「わたし」の謎 橘玲

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