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話術、人脈、知識……交渉で負けないヤクザはここがスゴイ!

理論武装、いちゃもん、因縁、いいがかり、難クセ……。さまざまなテクニックを駆使する「ヤクザ」の交渉術は、意外や意外、ビジネスパーソンにも参考になる部分が多々ある。そのテクニックを豊富な実例とともに紹介するのが、裏社会の事情にくわしい、山平重樹さんの『ヤクザに学ぶ交渉術』だ。読めばこっそり試したくなる、そんな本書から一部をご紹介します。

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相手が医者でもひるまない

交渉力のあるヤクザ――交渉ごとを専らのシノギとする総会屋、事件屋、仕事師といわれる連中を数多く見てきた組関係者によると、

「これはヤクザだけでなく、カタギにも共通することだと思うが、交渉上手たりうる条件は、話術、人脈、知識の三つがあげられる。交渉力のある人は、大概話術が上手くて人脈が豊富、そのテーマに関して知識があるというタイプ」

という。

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確かにいわれてみれば、ひとかどの親分といわれる人たちは、おしなべて話術が上手く、人の気をそらさない魅力がある

話術といっても、それは何も口で喋るだけでなく、

「目は口ほどに物をいう」

との言葉もあるように、目も立派な話術である。目だけで多くのことを語りかける親分もいれば、いるだけで存在感の大きなヤクザもいるわけである。

つまり、その人間のかもしだす雰囲気、立ち居振る舞いを含めた、トータルで考えたときの話術の上手さ、演出力が、ヤクザにはあるということであろう。

そうした話術の上手さに加えて、豊富な人脈、交渉を推し進めるに際して、そのテーマとなるものへの専門的な知識を持ちあわせていること――。話術、人脈、知識が交渉術のカギを握るとは、まさにその通りであろう。

関東の広域系三次団体のS組長も、その三つを生かして困難な交渉を成功に導いた一人だ。

それは院内感染にかかった被害者の親に依頼されて行なった、病院に対する補償をめぐっての交渉であった。

その依頼者の子は重度の身障者で、意識がない植物状態で、ある地方の大きな病院に入院していた。

その病院内で院内感染が発生、その子が運悪く感染してしまったのだ。

むろん親とすれば、運悪くなどとはいっていられない。どうしてくれるんだ、と病院側に詰め寄ったが、病院はのらりくらりとかわすばかり。

業を煮やして、知人の紹介でS組長に事の次第を話し、解決を依頼するに至ったのだった。

人に物を頼まれたら、嫌とはいえない性分のS組長。さっそく引き受けたのはよかったが、その院内感染及び医療関係の知識は皆無であった。

強いヤクザは「理論武装」する

そこでまずやったことは、院内感染ということに関して、それなりの知識を身につけることだった。

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その専門の本を読むのはもちろん、たまたまカタギの知りあいに元病院の事務員だった男がいたので、その者からレクチャーも受けた。親しくしている医師からもつっこんだ話を聞いた。

つまり、前述した三ポイントのひとつ、豊富な人脈も活用したわけである。そのうえで、もうひとつのポイント、徹底した専門知識の吸収を図ったのだ。

医療問題というのは、素人にはまずわからないものである。それがきっちりわかる人間を人脈に持っていたということが、S組長の大きな強みだったわけだ。

そしてその知識をそうとうモノにして、理論武装したうえで、敵との交渉に臨んでいるのだ。

S組長があとで語ってくれたことだが、

「ヤクザが交渉力があるっていうのは、成功した話しか語られてないから。失敗した話っていうのはあまり語られないからなんだよ。成功した裏には何があるかっていうと、これはカタギの世界でも同じだと思うんだが、予備知識を身につけていってるということ。つまり、段どりを目に見えないところでちゃんとやってるということだ。やらなきゃならないことは、事前にやるんだよ。

だって、そうだろ。営業マンが何かセールスに行く。それが技術的なものだとしたら、その商品の予備知識もなく、テレビのコマーシャルみたいに、いいものですよ、安いですよ、といってるだけで、売れるわけがない。他の会社のものとどこがどう違うのか、ということを技術的にわかりやすくちゃんと説明できなければ、営業マンはできないだろ。それと同じだよ。

ヤクザだって、無理難題をいうんじゃなく、いや、無理難題をいうときも、事前準備はしてるんだ。裏づけがあってこその無理難題なんだよ」

なるほど、そういうものだろうか。

ともあれ、S組長は準備万端の態勢で交渉に臨んだ。

結果、病院側も最後は折れざるを得なかった。

かくして決着はスムーズにつき、はっきりした形で示談が成立したという。その結論は、もとよりS組長が端から決めていたものと同じであった。

ヤクザの交渉は、暴力というものを背景にしているという一点だけで強いわけではない。

ときにはヤクザ以上に海千山千のしたたかなカタギを相手にして、そのタヌキを逃がさぬためにも、相手と対等以上の理論武装も必要となってくるのである。


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