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心はサザエさん、身体はフネ…小林聡美さんだって「身体の変化」に悩んでいる #3 聡乃学習

主演をつとめた『かもめ食堂』をはじめ、数々の映画・テレビドラマで活躍中の女優、小林聡美さん。1月からはドラマ「ペンションメッツア」(wowow)に主演しています。『聡乃学習』は、小林さんががていねいに、かつ軽やかにひとりの日常を送る様子をつづったエッセイ集。くすっと笑えて、そして読後、すがすがしい気持ちになれる本書から、一部を抜粋してお届けします。

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「初老の伸び縮み」前編

近所に女性専用の岩盤ヨガというものができたので、始めてみることにした。もともとスポーツクラブ的なものはあまり得意ではなく、近所をひたすら歩く(買い物とか)だけという健康法を実践していた私だったが、ここ近年の体の固くなりようは尋常でない。床に座った体勢から立ち上がるのに、いちいち掛け声がいる。夜中のトイレに向かう自分の歩行姿勢の老人化。もう、とにかくいろんなところが強張っているのだ。

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もともと体は固いほうではなかったので、毎日マメに柔軟体操なんかをしていればこのような問題は解決するのだろうが、毎日マメに、ということのむつかしさよ。自主的にやっていたラジオ体操第一もいつの間にかフェイドアウトしてしまった。

体を動かすのが大好き、というほうでもないし、かといってダラダラしているわけでもない。そしてこんなふうに極めて普通に日常生活を送っているひとにこそ、気が付けば体中強張り、といった不測の事態が訪れることになるのではないだろうか。

この体中強張りを素直に、かつ全面的に受け入れたとすれば、すぐにでも本格的な初老の域に足を踏み入れることができる。立ち上がる時には「ドッコイショ」と気合を入れ、決して走らず、階段は必ず手すりを伝わり、エレベーターという選択肢があれば臆さず利用。強張った体を労わりながら暮らそうと思えばいくらでもできるのだ。

しかし、なんとしたことか、人間の寿命はぐんぐん長くなっているそうで、このまま平和に世の中が過ぎれば、九十、百を余裕で迎えるひとが多いというではないか。そんな世の中に五十そこそこで初老、なんかいっちゃって年寄りぶっても、世間は許さない

というか許されないどころか、自主的に世の五十代女性の若々しいことよ。そんな若々しい五十代女性は大抵「嵐」のファンで、ライブにいったりしてイキイキと乙女をしている。ライブでは座って観賞なんて許されない。二時間以上立ちっぱなし。なんという元気な初老だろう。

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辞書で調べてみると、初老とは「四十歳の異称」または「老人の域に入りかけた年頃」とある。四十歳で初老はないだろう、と思うけれど、それだけ昔のひとの寿命は短く、精神的にも老成していたということなのだろう。とにかく、年齢的には十分初老と威張っていいものを、自覚あってかなくてかわからないけれど、そのことを関係のないものとして暮らしている若い初老がとても多いのが現実である。

かくいう私も十分に初老だと威張っていい年齢だが、やはり、どうしても「フネ」というより「サザエさん」な気分が抜けないのが恥ずかしい。「フネ」は原作では四十八歳、アニメでは五十二歳だそうだ。まさにアラフィフ、私世代である。

気分は「サザエさん」なのに、体は「フネ」。完全に統合不一致である。頭ではわかっているのに、なかなか実感が伴わない。しかし、私の体にあらわれたあちこちの強張りは、それまで意識したことのないもので、まさにこれが「フネ」か、と目の覚める事実として受け止めざるをえないものだった。

そんなこんなで岩盤ヨガなのである。人生まだしばらく続く以上、この体の強張りを今、全面的に受け入れるわけにはいかないのである。昔のようにとはいわないけれど、今より多少柔軟な体を取り戻そうではないか。

この岩盤ヨガ、一般的なヨガと違うところは、岩盤浴の岩盤、あの上でヨガをするというもの。つまり室温が高い。岩盤が四十二℃、室温は三十八℃だそうだ。これまでの一般的なヨガは冬場などにうすら寒く感じる時があって、根性のない私は、寒いから、ということで続かなかったりした。それがどうだ、室温三十八℃。真夏だ。おまけに遠赤外線効果もあるらしい。

(後編につづく)

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聡乃学習 小林聡美

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