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お世辞や心にもない言葉はすぐわかるもの。あなたの本音をぶつけてください #5 たどりつく力

貧しさ、いじめ、そして聴力の喪失……。でも、運命の扉は重いほど中が明るい! 数々の苦難と絶望を乗り越え、世界的ピアニストに登りつめたフジコ・ヘミングさん。著書『たどりつく力』は、その激動の半生をみずからつづった自叙伝エッセイ。心が折れそうなとき、逆風に負けそうなとき、読めばきっと勇気がわいてくる。そんな本書の中身を少しだけご紹介します。

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心を開いた人には本音で話そう

私は本音でものをいう人が好き。私自身も、歯に衣着せぬ物言いをするとよくいわれます。

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だからでしょうか、歯の浮くようなお世辞や心にもないことをいう人は、すぐに見抜いてしまいます

これは本能かもしれません。

私は長い間、孤独を強いられたためか、寂しがりやの面もあります。

ひとりでいることは好きですが、反面、人と一緒に何かを表現したり、成し遂げたりすることも好きです。

真の友人は少ししかいませんが、一度心を開いた人には本音でぶつかっていきます。そのなかで、ごく親しい友人がいつもいうことがあります。

「あなたって、特有の流れるような口調で、淡々と自分の苦しかった時代のことを話すのね。まるでモノクロ映画のようで、なつかしい感覚に陥るわ。訥々とした調子で、うつむき加減で話しているかと思うと、突如言葉が生き生きとした輝きを持ってリズミカルにすべり出し、表情も一変して明るくなる。まるで言葉そのものが音楽のように、速度やリズムや調子を変えていくのね」

その友人は、よく私を見ているなあと思います。

私は親しい人には心を開きますが、知り合ったばかりの人や仕事上のつきあいだけの人、あまり会う機会のない人にはそっけない態度をとるように思われてしまいます

初めて会った人は、私がその人の声を十分に聞き取ることができないため意思の疎通ができず、気難しいタイプだと思われます。

確かに、男性の低い声や小さい声の人はよく聞き取れません。女性でも、おしとやかにしゃべる人の声は聞きにくいですね。

耳が聞こえなくなったベートーヴェンが、人に誤解されるのを杞憂して、転々と住居を変えた気持ちはよくわかります

私も、いまのパリの家に落ち着くまで、何度か引っ越しを余儀なくされました。

古い家をリフォームして大切に住む

パリは昔から大好きで、憧れの地でした。フランス人の自由を尊重し、他人に干渉せず、知的でおしゃれでクールなところも気に入っています。

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いつかパリに住みたい、そう願っていました

ようやく見つけたモンマルトルの家は、ピアノが自由に弾けることからとても気に入っていましたが、ピアノを置いてある部屋が半地下で、道路を歩いている人が窓からのぞき込んで演奏を聴くため、うんざりして引っ越しました。

一時はサン・ルイ島に仕事部屋を持ったこともありますが、市庁舎の近くの古い建物の一角にある家を見つけた時は、ようやくすべてがそろっていると納得し、ここに落ち着きました。

私は古い家にこの上なく惹かれ、京都の町家を購入した時も、ロサンゼルスのラフマニノフが晩年暮らした家の近くに家を見つけた時も、自分なりに改装し、住みやすくして使っています

日本は二十年くらい経つとすぐに家を壊してしまい、新建材などで建て直しをして没個性的な家を作ってしまいますが、私は古い物をもっと大切にするべきだと思います。

でき得る限り修理して使う、それが大切ではないでしょうか

でも、直そうとすると、大工さんに、「もう部品がない」といわれるのが現状ですが……。

日本は常に新しい物へと目を向け、それで経済成長を果たしてきた国ですから仕方がないのでしょうが、私はまだ使える家をどんどん壊してしまうことにいつも心を痛めています。

家は私の夢の場所であり、生き方そのものが映し出される場所です

内装をあれこれ考え、壁紙や家具や置物、カーテン、照明などを選んでいる時が至福のひとときです。

神さまが与えてくれた宝物のような時間だと、いつも感謝しています。

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たどりつく力 フジコ・ヘミング

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