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ひとり暮らしは自由。自由を謳歌していると思えば寂しくはない #4 たどりつく力

貧しさ、いじめ、そして聴力の喪失……。でも、運命の扉は重いほど中が明るい! 数々の苦難と絶望を乗り越え、世界的ピアニストに登りつめたフジコ・ヘミングさん。著書『たどりつく力』は、その激動の半生をみずからつづった自叙伝エッセイ。心が折れそうなとき、逆風に負けそうなとき、読めばきっと勇気がわいてくる。そんな本書の中身を少しだけご紹介します。

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猫と一緒ならいつもにぎやか

ヨーロッパで暮らしていた時から、私はいつも猫や犬を何匹も飼っていました。一時期、ドイツやスウェーデンのアパートで「ペット禁止」というところに住みましたが、その時のことは思い出したくもありません。

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いまでは下北沢の家に猫が三十五匹いて、とてもにぎやかです。毎日えさをやり、話しかければ、寂しさなど吹き飛んでしまいます。

ひとり暮らしを寂しいと考えず、自由を謳歌していると思い、ペットとともに楽しく過ごすべきです。

私は演奏旅行で家を空けることが多いため、ペットの世話は猫シッターに任せています。

パリの家にも犬がいますし、犬と散歩をしているといろんな人と友だちになれます。そうした人と政治、経済、芸術、宗教の話などに花が咲きます。

各地に演奏旅行に出かけると、朝は早く起きてホテルの朝食のパンを少し余分にポケットにしまい込みます。それを持って公園にいき、鳥にえさをやるのです。

ヨーロッパの人々は公園の美化にこだわり、特にドイツではえさやりを嫌うのですが、私は気にしません。

注意されても、そういう時はわざと聞こえないふりをしています

もちろん人間と同じように、たくさんの猫がいると、私と気が合わない猫もいます。すごくわがままだったり、他の猫を押しのけたり、えさを独り占めしたり、いくら躾をしても一向にそれに従わない猫などです。

でも、人間とは異なり、私はどんなに気に食わない相手でも、猫だと許せてしまうのです。ここが不思議なところですね。

熱中できる何かを見つけよう

ヨーロッパから日本に帰国する時、それまで一緒にいた猫たちも連れ帰りました。私の大切な家族であり、友人だからです。

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いまも、毎日いろんな犬や猫に話しかけて暮らしています

彼らは気まぐれのように見えても、ピアノを聴いてくれ、話し相手になってくれ、孤独感から私を遠ざけてくれます。

ヨーロッパから持ち帰ったのは、猫だけではありません。

子どものころから動物や草花、きれいなガラス製品や古い布、ローソク立て、アクセサリーが好きだった私は、ヨーロッパで古いワイングラスやアンティークの置物、ブローチや椅子などをたくさん部屋に置いていました。

そういう小さな美しい物や古い時代に作られた物を見ていると、心がやすらぎます。私は長く使っていた物は、なかなか捨てられない性分なのです。

ふだん着る洋服もステージ衣装も、既製のまま着ることは絶対にありません。何かしら工夫を施し、自分であれこれ端切れやボタンや飾りを縫い付けてオリジナルの洋服に仕上げます。昔から裁縫は得意でしたので。

自分の個性を大切にするためには、何か得意なことを見つけ、オリジナリティあふれる物を創作するといいと思います。身近な物でいいのです。

自分が本当に好きなこと、それをしていると嫌なことが忘れられる、熱中できるという何かを見つけると、気分がやすらぎます。

私の場合は、裁縫や手芸がその役割を果たしています。古い帯や着物などの端切れ、ボタン、ビーズ、レース、チロリアンテープなどを見つけると、イメージがふくらみ、あの洋服に付けようとか、髪飾りにしようとか、次のステージ衣装の飾りにしようとか、いろんなことを考えます。

なんと楽しい時間でしょう。

「ひとりを楽しむ」

――私はこうした時間を貴重なものと考え、ひとりだからこそ楽しめると思い、精一杯自由を満喫します

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たどりつく力 フジコ・ヘミング

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