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世界的ピアニストが挑む、クラシック音楽業界の「DX革命」 #5 終止符のない人生

「日本でもっともチケットが取れないピアニスト」と言われる、若き天才・反田恭平さん。昨年、世界三大音楽コンクールのひとつ「ショパン国際ピアノコンクール」で2位入賞の快挙をなしとげ、世界的に脚光を浴びています。そんな反田さんの初の著書『終止符のない人生』が、この夏、ついに発売となりました。ファンの方はもちろん、音楽好きの方、自分の「好き」を仕事にしたい方にも読んでもらいたい本書、その一部をご紹介します。

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今こそ業界を変革するときだ

新聞や雑誌のインタビュー取材を受けながら、紙媒体の経営は大変だといつも思う。記者やカメラマンが一生懸命記事を作っても、人々はお金を出して新聞や雑誌を買おうとはなかなかしない。電車の中で新聞や雑誌を読んでいる人は、一車両につき一人いるかいないかだ。みんなスマートフォンにばかり目を落としている。

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どうにかして新聞や雑誌を存続させなければいけないとも思うし、今が変革のときだとも思う。新しいものを作るときには、何かを壊すことも必要だ

オンラインサロン「Solistiade」の有料会員は、5000円なり3万円というまとまった年会費を支払ってでも、僕やジャパン・ナショナル・オーケストラのコンサートをどうしても観たい。そこまで熱心な応援団がいることは最大の強みだ。

まずは核となるこの有料会員を大切にしながら、オンラインサロンを充実させていく。僕のピアノとジャパン・ナショナル・オーケストラの魅力、クラシック音楽の豊穣な世界観を伝えながら、オンラインサロンの有料会員を少しずつ増やしていきたい。

環境の面からも「紙のチラシ」は、スマートフォンのアプリに集約するべきだ。全国のコンサートホール、芸能プロダクション、レコード会社、さらには自治体ともコラボしてアプリに情報を集約させたい。

スマホアプリでダウンロードしたQRコードをピッとやれば、コンサートホールの入り口でもぎり(紙のチケットをちぎる儀式)をやる必要もなくなる。思い出に残したい人、記念にほしい人だけに「紙のチケット」の発券の手助けをするほうがいい。ほかの業界であれば普通にやっていることを、クラシック音楽業界の人たちは誰もやろうとしないのが僕は不満だ。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)と「DX革命」の必要性がこれだけ騒がれているのだから、クラシック音楽業界にもDX革命を起こすべきだと思う。僕はそのための行動を開始するつもりだ。

日本にクラシックブームを起こしたい

スマートフォンのアプリでクラシックのコンサートを予約すると、その履歴は何年も何十年も蓄積されていくことになる。

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これから将来にわたってずっと音楽を聴いてくれることになる大学生や中高生には、チケット代を大幅割引する「ジーンズシート」「学割シート」を提供したい。スマホアプリでコンサートを予約すると6回に1回はタダになるとか、映画館がやっているタダ券サービスを導入するのもいい。

僕が少年時代を過ごした地元は、スタンプラリー発祥の地だ。100円ショップやスーパーマーケット、商店街のどこのお店に行っても地元限定のスタンプをくれる。

スタンプは100円買い物をするたびに1枚発給され、350枚貯めると500円分の商品券として利用できる。年に一回、スタンプを集めた人向けの抽選会があるのも楽しみだった。アタリを引けば、お米や旅行券、ディズニーランドのペアチケットがもらえるのだ。

スタンプラリーのようなインセンティブ(お得な報酬)があれば、「今年は2カ月に1回コンサートホールに出かけよう」と気持ちが前向きになる

クラシックにJ─POP、K─POP、ロックに演劇、落語、能や歌舞伎に至るまで、さまざまなコンサートや舞台を生で観てくれる観客層が、人口1億2600万人のうち600万人いるとしよう。まずはアプリを100万人にダウンロードしてもらい、ゆくゆくはリアルな観客層600万人がダウンロードしてくれればすごい時代が訪れる。

Tポイントカードやセブン‐イレブンのnanaco(ナナコ)などを皆がスマホアプリでダウンロードしているように、コンサートを観るためのアプリを日常的に600万人が触れる。1日わずか4~5秒間アプリにアクセスしてもらうだけで、「○○のコンサートは今週××で開かれます」「ジャパン・ナショナル・オーケストラのコンサートは今晩開催です」という情報が人々の目に触れる。これはものすごい宣伝効果だ。

いろいろなところで「反田恭平はクラシック業界の風雲児だ」とか「反田は次々と新しいことに挑戦している」と言われるが、僕が特段イノベーティブなわけではない。クラシック音楽業界以外の人たちが普通にやっている当たり前のことを、自分もやろうとしているだけだ

TBSの看板番組「情熱大陸」は、そう何度も出演できないことで知られる。どういうわけか、僕は2016年10月の放送に続いて2020年8月にも取り上げていただいた。そしてさらに、ディレクターがショパンコンクールへの挑戦に密着し、2021年11月に三度目の「情熱大陸」放送が実現した。

ショパンコンクール第2位と「情熱大陸」が絶大な効果を発揮して、僕のコンサートは今ものすごく注目されているよう。2022年の日本で、まさかショパンとクラシック音楽がこんなに注目されるとは思わなかった。

一部のクラシック好きしか聴いてくれなかったジャンルが、マス(大衆)に届きつつある。日本には、クラシック音楽の聴衆を掘り起こせる潜在的可能性があるのだ。僕はその可能性にかけて、日本で史上最大のクラシック音楽ブームを巻き起こしたい

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終止符のない人生 反田恭平

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