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菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫…! アウトロー映画の金字塔が一冊に #2 シナリオ仁義なき戦い

巨匠・深作欣二によるヤクザ映画の金字塔『仁義なき戦い』。菅原文太をはじめ、松方弘樹、梅宮辰夫、渡瀬恒彦、田中邦衛など、戦後を代表する名優が一堂に会した本作は、今なお映画ファンを熱狂させています。『シナリオ仁義なき戦い』は、第一作目の『仁義なき戦い』から、続編の『仁義なき戦い 広島死闘篇』『仁義なき戦い 代理戦争』『仁義なき戦い 頂上作戦』まで、シナリオを完全収録した貴重な一冊。ファン垂涎の本書より、一部を抜粋してお届けします。

*  *  *

9 裁判所の表

入ってゆく手錠、腰縄の囚人一行。その中に広能。直ぐ前に若杉がつながれている。

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10 刑務所の食堂

食卓に就く囚人たち。

食器にはジャガイモと薄い味噌汁のみ。

それでも飢えた囚人たちはむしゃぶりつくように食べ始める。

突然、食器を払い飛ばす若杉、立ち上がって出て行こうとする。

看守たちが遮って、

看守A「おい、何処へ行く!」

若杉「所長に会うて何喰っとるか聞いてみたる! なーに吐しゃがるんない!」

看守B「席に戻れ!」

若杉「戻ってやるから米の飯出して来い。わし等にはわし等の配給分がある筈じゃ!」

看守A「食事が不満なら喰わんでおれ!」

若杉「ほうか。喰わんで待っとったら、そっちらが盗み喰いしとるわしらの米、返してくれるか!」

看守B「貴様!」

引っ立てようとする看守たちに猛然と殴りかかる若杉。集まってくる看守、騒然となる囚人たちに、

看守C「席を立った者は三日の減食だぞ!」

慌てて席に返る囚人たちの中から広能が立ち上がり、若杉に群がる看守たちに飛びかかってゆく。

暴れまくる広能と若杉。

11 鎮静房の中

押し籠められている広能と若杉。

若杉「こんなア(お前)何年打たれとるんない?」

広能「十二年です」

若杉「有期刑なら、保釈金さえ積みゃ出られようが。今は何処の刑務所も満員じゃけんのう。まァ十二年いうたら五万は要ろうが……」

広能「そんな銭いうて、出るとこありゃせんです」

若杉、フト真剣な顔を近づけて、

若杉「のう、わしはこれから腹を切るけんのう、こんなアあとでちいと手伝うてくれゃ」

広能「(びっくりして)腹切ってどうされるんですか!?」

若杉「ここじゃ治せんから、すぐ保釈で出られようが」

若杉、囚着の襟の先を喰い破り、中から安全剃刀の刃二枚を取り出す。

若杉「ええとこで、自殺じゃ云うて騒いでくれ。もしも下手やって、切り過ぎて苦しむようじゃったら、一ト思いに殺してくれい。頼むど!」

広能「……うん、委しときない!」

若杉、ジッと広能を見つめて、

若杉「のう、これを縁にわしと兄弟分にならんか。わしは土居組の若頭しとる若杉寛いうもんじゃが」

広能「前から知っとります。でも、わしは極道じゃないんで……」

若杉「誰も始めから極道者じゃ云うておるかい。ま、わしについて来い。盃せんかい」

広能、強く頷いて正座に変える。

広能「わし、改めて言うのも可笑しいですが、広能昌三いうもんです」

若杉「盃がないけん、これで腕切って血すすらんかい」

若杉、剃刀の一枚を広能に渡す。

二人、向き合って、互いに左腕に刃引きし、その腕を抱き取り合って傷口の血をすすり、終わる。

若杉「ま、これから一生懸命やってゆかんかい!」

広能「はあ!」

若杉「わしが先に出られたら、こんなの保釈金を出してくれるとこを、どこか探したるわい」

若杉、あぐらに組みかえると、腹部を露出し、二枚の剃刀を束ね持って、無言の気合と同時に切り込み、横一文字に引き回す。苦悶のうめきと共にみるみる血が溢れ、腸まではみ出てくる。

広能、カッと見守っていたが、

広能「呼びますよ!」

頷く若杉。

広能、扉口に走ってガンガン叩きながら、

広能「おうーい、担当ッ、自殺じゃ、自殺じゃ……!!」

12 刑務所の表

広能が出されてくる。

「山守組」のトラックが駐まっていて、山守義雄と坂井、山方、それに野方を連れた土居が待っている。

山守は隙のない目つきの商人然とした中年男。駈け寄る坂井や山方に、

広能「長いこと、心配さしたのう」

坂井「(山守を紹介して)保釈金出してくれた山守のおやじさんよ」

広能「(山守に)どうも済みません。お借りした分はその内働いて返さして貰います」

山守「なに云うんない。もともとはうちの若いもんのデイリの身代わりになってくれたんじゃけん、もっと早よ分っとりゃの、この土居さんが相談に寄られて初めて知ったんじゃ」

土居に一礼する広能。

土居「寛が中でえろう世話になったそうで、ありゃ、まだ病院から出られんもんじゃけん、わしが代わって礼を云っとく」

と、持ってきた祝いの酒包みを渡す。

恐縮して受け取る広能に、

山方「大したもんじゃ、土居の親分に迎えに来て貰ういうては昌ちゃんこんな(お前)一人ぐらいのもんよ!」

笑いながらトラックに乗る一同。

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13 材木置場

坂井等と一緒に木材をトラックに積んで働いている広能。

14 闇市

広能と山方、坂井、神原、新開、川西、杉谷、それに槇原、矢野、大柿たちが集まって雑炊の丼をかっこんでいる。

そこへ前川巡査が息せき切って駈けつけてくる。

前川巡査「おい、お前等ちいと手伝うてくれんか!?」

坂井「なんです?」

前川巡査「駅前の衣料問屋によ、三国人のピストル強盗が押し込んで、わしらではどうもならんのよ。頼むけん来てくれい!」

坂井「そう云われても、わしらにゃなんも出来んですよ」

前川巡査「(小声で必死に)お前等、これ(ピストルの引金を引く手ブリで)持っちょろうが!」

広能「ほいじゃア、ブチ殺しても構わんの?」

前川巡査「構わん、構わん! 後始末はこっちでやるけん、やってくれい!」

顔見合わせる一同。

坂井「よーしッ、男になっちゃろう!!」

一斉に丼を放り出して駈け出す。

15 衣料品問屋の表と中

遠巻きの人垣の中にトラックが一台横づけになり、拳銃を手にした強盗団が中から衣料品の梱包を運び出して積んでいる。

店内には縛られて集められている男女従業員たち。

離れた所に警察のジープが二、三台集まっているが、警官たちは車の蔭に隠れて唯一の武器の警棒を握りしめて見守るのみ。

強盗団の見張り役が一発ブッ放す。

慌てて顔を引っ込める警官たち。

衆人環視の中で、悠々と作業を続けている強盗一味。

其処へ坂井等のトラックが乗りつける。

坂井が荷台から飛び降りてツカツカと見張り役に近づき、

坂井「おい、わしらにもくれいや」

見張り「オ前等日本人カ? 日本人ハ出シャバルナ!」

いきなり拳銃を抜いて見張り役に射ち込む坂井。

中から飛び出してきた二、三人を広能たちが荷台上から一斉乱射、一瞬にして射ち倒す。坂井たち、更に店内へ数発射ち込んで、

坂井「中のもん、出て来いッ!!」

拳銃の他、日本刀、匕首を引ッこ抜いて取り囲む広能たち。

中から強盗団の残党数人が手を挙げて出てくる。素早く拳銃などを取り上げる坂井たち、トラックに飛び乗り、全速で走り去る。ワッと大喚声を挙げる見物の弥次馬たち。待機していた警官隊が一斉に強盗団に殺倒する。

16 闇市のバラックの屋根裏部屋(N)

坂井や広能等山守組一同と槇原のグループ、山方も加わって、飲み且つ喰い、軍歌をがなって気勢を挙げている。

一ト騒ぎが静まった時、

坂井「のうや、わしらもよ、のう、いつまでもこうバラバラにやっとったんじゃラチがあかんけん、ここらでキチンとした組でも作ってまとまったらどうか思うんじゃが、こんなら、どうない?」

槇原「組いうて、どういう風にするんの?」

坂井「うちの山守のおやじいうんは戦前大阪の陸岡組で博奕を打ちよられとってじゃ。ほいじゃが、あの通り男前が冴えんもんじゃけん、自分でも愛想尽かして終戦からこっち足を洗ったいうて云うとられたが、昔の縁筋に声かけたら、のれんを立てられんこともないんじゃ」

槇原「土居組とおかしゅうならんかの」

坂井「土居には土居のシマがあるじゃない。要はこの闇市を誰が守るかいうことよ。昌ちゃん、こんな、どう思うや?」

広能「うーん、軍隊で酒や女覚えてしもうたけん、今更学校にゃ行けんし……天皇陛下いうてもコローッと人間になってしもうたんじゃけん、何してええのか分らんし……」

坂井「ほうじゃけん、わしらで団結してしたいことしちゃりゃええんじゃ。それにはよ、土居のような古い筋目の傘に入っちゃ出来ゃせん。山守のおやじなら、わしらが男にしてやるんじゃけん、云う通りになろうじゃない」

新開「鉄つあんの云う通りよ、わしらで新しい一家を作らにゃよ、このままでおったら、年寄りどもに利用されるだけで」

大柿「今は軍隊ものうなったんじゃけん、わしらはわしらで強うならにゃ」

山方「どっちみち、今でもわしら喧嘩やなんかやっとるんじゃけんの」

矢野「わしゃ博奕をしたいのう!」

広能「わしは山守さんに保釈金借りっ放しになっちょるけん、山守さんが立つ云うんじゃったら、ついて行ってもええで」

坂井「よしッ、じゃ、わしゃ今からおやじに話してくる! 待っとれい!」

川西「こっちはそれまで乾盃じゃ!」

下へ駈け降りてゆく坂井。

乾盃に沸く一座。

◇  ◇  ◇

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