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なぜサンフレッチェ広島は「ジャージでの移動」を禁止したのか? #2 小さくても、勝てる。

身長という壁、2度のリーグ降格、原因不明の病。170センチの小さなストライカーは、挫折のたびに「考え続ける」ことで得点王に上りつめた……。サンフレッチェ広島などで活躍し、昨年、惜しまれつつ引退したプロサッカー選手、佐藤寿人。初の著書『小さくても、勝てる。』は、今まで明かさなかったこだわりのゴール理論や、秘められたエピソードを忌憚なく語った一冊だ。サッカーファンお待ちかねの本作の、ためし読みをお届けします。

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先輩から教わった大切なこと

サンフレッチェ広島では、チームの規律として、ジャージやスウェットで練習場に来ることを禁止している。半ば強引にだけれど、僕が選手間のルールとして取り入れたのだ。

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今では、仮に練習場にジャージやスウェットで来たら、選手会に罰金を払うことになっている。若手には口うるさい先輩だなと思われているかもしれない。

そういう考えに至ったのには、あるきっかけがあった。

あれはベガルタ仙台に移籍したばかりのころだ。

2002年にJ1初昇格を果たし、J1で2年目を迎えた仙台には、ちょっと遅れたJリーグブームが到来していて、それまでプレーしたジェフユナイテッド市原やセレッソ大阪では感じたことのないサッカー熱を町から感じた。町を歩けば、「頑張ってね」と声を掛けられ、食事に行けば「応援しています」と後押しされる。自分たちへの期待を肌身で感じた。

だけど、当時の僕は、まだプロ意識に欠けていた

ある日、練習場に行くと、先輩である財前(宣之)さんに呼び止められた。

「サッカー選手は、ただプレーしていればいいわけじゃない。子供たちに夢を与える職業でもあるんだぞ。だから、練習場に来るときもピシッとした格好で来い。別にスーツで練習に来いって言っているわけじゃない。でも、子供たちが見て『格好いいな』『サッカー選手になりたいな』って思われるようにならないとダメだ」

僕はそれまで練習場に行く格好についてなど考えたこともなかった。だから、その日もジャージを着て練習場に行っていた。プロのサッカー選手として「見られる」という意識が欠けていたのだ。

選手は「憧れの存在」であるべき

財前さんに指摘されてから、僕はジャージで練習場に行くことはなくなった。

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家と練習場の往復だけならまだいい。でも、その道中ではコンビニに行くかもしれないし、本屋にだって立ち寄るかもしれない。そのときスウェットを着込み、サンダルを履いただらしない姿を子供たちが見たらどう思うだろうか

サッカー選手は、サッカーをすることで生活しているけど、そこには少なからずファンに夢を与えるという部分も含まれている。いついかなるときも、子供たちからの憧れの存在でいることで、サッカー選手というステイタスも向上していく。

大先輩であるカズさん(三浦知良)はいつもスタイリッシュな格好をしているけれど、きっと、それは自分のためだけではない

(本田)圭佑(CSKAモスクワ)が両腕に時計をしているのを初めて見たときは驚いたけれど、彼が真っ白なスーツを着て、真っ赤なフェラーリに乗って空港に現れるのも同じだ。

二人はプロとしての自己プロデュースだけでなく、おそらくサッカー選手全体のことを考え、行動しているのだろう。メディアに取り上げられ、サッカーがさらに認知されることによってサッカー選手の地位はさらに向上する。

決して高価なものを身につけろというわけではない。格好に関していえば、清潔感のある服装であればいい。ただ、何事に対しても常に高い意識を持つこと、プロ意識を持つことが、自分を向上させることにつながる。そのプロ意識は、確実にプレーにもつながっていくはずだ。

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