朝はスムージーより「具だくさんの味噌汁」を食べなさい #3 スタンフォードの眠れる教室
睡眠不足から不眠症、夜ふかし、いびきまで、まさに現代病ともいえる睡眠のトラブル。スタンフォード大学医学部教授・西野精治さんの『スタンフォードの眠れる教室』は、そんなあなたのお悩みを科学的エビデンスをもとに解決へ導いてくれる一冊。睡眠の誤った常識をくつがえし、眠りの研究の最前線がわかる本書から、内容の一部をご紹介します。
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「冷たい飲み物」はむしろ眠気を誘う
朝、すっきりしたいから冷水を飲む……。これは一見、良さそうですが、実験結果からは冷たい飲み物が眠気を誘い、温かい飲み物が覚醒のスイッチをオンにすることがわかっています。
起床時の水分補給に水を飲むのは構いませんが、キンキンに冷えた水であれば少量にとどめるべきです。
体の芯を温めて覚醒するために、朝の飲み物は温かいものを選びましょう。コーヒーを飲む人が多いと思いますが、いい目覚めにしたいなら、アイスコーヒーよりもホットコーヒーを。
ちなみにコーヒーや紅茶などについては、午前中でも昼間でも、ホットのほうが覚醒効果が期待できます。味噌汁などはかなり体を温めますし、発酵食品由来の効果も期待できます。
シャワーを浴びたり入浴したりすれば確実に体温は上がりますが、思い出してほしいのは、体温は上がれば下がるということ。トカゲやヘビのような変温動物でない限り、ホメオスタシスには逆らえません。
ぬるめのお湯での入浴では、副交感神経を刺激して交感神経を抑制する効果もあります。だからこそ眠気が出て入眠には役立ちますが、午前中の入浴では、いったん体温が上がった後の、体温下降期に覚醒スイッチはオフになってしまいます。
温泉旅館に連泊して、「とことんのんびりするぞ!」という場合を除いて、朝の入浴はやめておきましょう。体温変化をあまり起こさず、目覚めを良くするには、「ぬるめのシャワーを短時間」というのをお勧めします。
また、冷水で手や顔を洗うことも有効です。入眠のためには皮膚温を上げて深部との体温差を「小さく」し、覚醒のためには皮膚温を下げ体温差を「大きく」するのが大切。
早朝の起床前の時間帯から深部体温が上がってくるので、手や顔を冷水で冷やすことによって皮膚温を下げ、体温差をさらに「大きく」するという狙いです。冷たい水はリフレッシュにもなります。
運動も確実に体温を上昇させますが、これも入浴同様の性質があります。すなわち激しい運動をして体温を上げすぎると、一時的にはシャッキリ覚醒しますが、1時間半から2時間ほどで「元に戻そう」という働きで体温が下がり、眠くなってしまうのです。
朝ランニングをする習慣を持つ人は多いと思いますが、「良い目覚め」という観点からいうと、全力を出すのはやめておきましょう。汗をかかない程度が目安です。ただし、その習慣で問題がない人は無理にやめる必要はありません。
高齢者の場合はウォーキングにとどめておいたほうがいいでしょう。ヨガやストレッチのようなゆるやかな有酸素運動は、目覚めを良くする、ほど良い運動といえます。
朝食には「具だくさんの味噌汁」がいい
アメリカでも日本でも美容と健康を謳うスムージーが流行しましたが、私がお薦めする朝食メニューは「具沢山の味噌汁」です。
大きめに切った大根や人参など、しっかり噛む食べ物を入れるといいでしょう。噛むというのは筋肉を使う「運動」。噛んで味わう咀嚼は、感覚神経の上行枝への刺激にもなり覚醒刺激を引き起こします。
味噌汁などに含まれる必須アミノ酸の摂取は大事で、例えば、必須アミノ酸のトリプトファンが気分の調節に関わるセロトニンに、そしてセロトニンが睡眠ホルモンのメラトニンに合成されます。
これら必須アミノ酸の摂取のためにサプリを飲む必要はなく、バランスの良い食事をとれるのであればそれほど心配することはありません。セロトニンは体の中に充分蓄えられています。
ただしメラトニンは貯蔵できないので、夜に光を浴びることによる悪影響はすぐに出現します。朝摂取したトリプトファンやトリプトファンを含む蛋白がその日のうちにメラトニンに合成されるわけではありません。
セロトニン生合成は光で促進されることがよく知られていますが、セロトニンは体内で蓄えられるので、光量不足は長期間続くと問題がありますが、短期間ではそれほど心配することはありません。
北欧で見られる季節性感情障害(冬季にうつ症状が出現する)は、極夜(1日中太陽が出ない)が続くことにも原因がありますが、これは極端な例です。
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