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共感はするけど巻き込まれない…ブッダが教える人間関係のコツ #3 悟らなくたって、いいじゃないか

近年、瞑想やマインドフルネスがブームになったこともあり、仏教への注目度が高まっています。しかし、私たち「普通の人」は、欲望を捨て出家したり、修行して悟りを得たりしたいわけではない。そんな「普通の人」に、ブッダの教えはどう役立つのでしょうか?

その答えへと導いてくれるのが、タイで30年近く出家生活を送る日本人僧侶、プラユキ・ナラテボーさんと、気鋭の仏教研究者、魚川祐司さんの対話集『悟らなくたって、いいじゃないか――普通の人のための仏教・瞑想入門』です。一部を抜粋してご紹介しましょう。

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苦しみを抱えた人と対話するときは


魚川 そういった様々な心の状態を有している方と関わることで、先生自身の器というか、キャパシティが広がっていくという面もあるのでしょうか。

プラユキ それはありますね。相談を受ける人のキャパシティというのは大切で、人間関係というのはエネルギーのやりとりというか、感情の波の力関係になっているところがやはりあります。
 
例えば、五十の怒りを抱えた人が三十の安らぎの人のところにやってきたら、安らぎのほうが負けてしまう。でも、百の安らぎがある人なら、五十の怒りの人がやってきても、そこで動揺することなく、むしろ相手に安らぎを与えることができるでしょう。

もし千の安らぎがある人がいたら、五十の怒りを抱えた人が十人来ても大丈夫だよね。ブッダというのは、そういう圧倒的な「安らぎパワー」を持っていた人ではないかと、私は思うんです。
 

苦しみを抱えた人と対話する時に大切なのは、まず受容し、共感するということです。

仏教用語に「開示悟入」という言葉があって、これは一般に「仏の智見を開示し、悟らせ、仏道に入らせること」と解釈されていますが、私自身はこれを、「(相手の心を)開かしめ、(教えを)示し、悟らせ、仏道に入らしむ」と理解し、苦しみの解決サポートの際の順序の指針として、活用させてもらっています。
 
というのは、私自身は苦しみからの解放を得るための最高の方法は仏道だと思っていますけれども、その価値を人々に理解してもらうためには、まず相手に心を開いてもらわないといけないんですね。

苦しみの物語の中に巻き込まれて、それが「現実」になってしまっている人に、そこから全くdetachしたところから「これが正しい道だよ」なんて話をしても、なかなか理解してはもらえません。
 
そうではなくて、相手の苦しみの物語の中に、私も自ら身を投じて、それを受容し共感する。ただし、それに巻き込まれるのではもちろんなくて、苦しみの物語にtouchingでありながら、その流れの中で「ピカーッ」と灯台のように、気づきの光を灯し続けておくんです。

「気づきの灯台」であり続ける


魚川
 仏法の教えを示す前段階として、まず相手に心を開いてもらわなければならないし、そのためには苦しみの物語を受容し共感する必要がある。

ただ、流れに身を入れはしてもそこに巻き込まれてはいけなくて、自分自身はあくまで相手が落ち着いて我が身を振り返るための目印となるような、「気づきの灯台」であり続けなければならない。これはたしかに、キャパシティが問われますね。

プラユキ はい。心に問題を抱えた方を助けたいという場合に、最も大切なのは、「自分が巻き込まれない」ということです。でも、だからといって距離をとるだけでは、相手が心を開いてこちらの話を聞いてくれることもありません。

そこで「共感しても巻き込まれない」という態度をどれだけ維持できるかということは、本当にその人のキャパシティというか、力量次第の話になります。
 
ただ、そのキャパシティを広げるというか、相手の話を受容する基本的な態度をつくる上で、瞑想が非常に役立つというところはあると思います。

「巻き込まれない」というのは、「どんなに激しい感情の流れの中においても、明晰な気づきを保っておく」ということですが、これはまさに、瞑想で養われる態度そのものですからね。

先ほどの喩えに即して言えば、五十の怒りを持った人に対して、こちらの安らぎが四十でも、話をしながら気づきを明晰に保てていれば、そこに二十のプラスアルファの力が加わって六十対五十になり、何とか呑み込まれずにいられる、といったことは実感としてあります。
 
先ほどの魚川さんの話の中に、ウ・ジョーティカ師の「川」の喩えが出てきましたけど、そこで指摘されていたように心という「川」の流れから身を乖離させずに、しっかりとコミットしながらも明晰な意識を維持していくというのは、智慧を獲得するためにも極めて重要であると同時に、苦しんでいる人の抜苦与楽を実現する共感力や慈悲心を培う上でも欠かせないということです。

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悟らなくたって、いいじゃないか 普通の人のための仏教・瞑想入門


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