あえて仕事を「無料」で受ける…目先のお金より大切なものとは #4 勝てるデザイン
元・任天堂のデザイナーで、現在はオンラインコミュニティ「前田デザイン室」代表として活躍中の前田高志さん。そんな前田さんの著書『勝てるデザイン』は、「Illustrator時短術」「おすすめフォント3選」などデザイナー必見のテクニックはもちろん、「ダサいデザインはなぜ生まれるのか」「プレゼンはラブレター」など、デザインを武器にしたいビジネスパーソンにも役立つ内容。そうそうたる著名人からも称賛の声が届いた本書より、一部を抜粋してご紹介します。
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仕事はつくるもの、お金は使うもの
会社を退職し、フリーランスを経て会社を作り従業員を雇うようになって、僕の仕事とお金に関する考え方はずいぶん変わりました。
しっかりお金を使い、それを後に倍々にして回収しようというマインドになってきたのです。
とはいえ、規模は小さいですが20代の頃から自己投資は惜しまない方でした。
例えば本です。「読みたい」と思ったら値段を見ずに買っていました。映画もセミナーもそうです。
自分の能力向上につながると感じたものには積極的にお金を使っていました。
自分は一流じゃない、そのコンプレックスがあったので、休んだらトップからもっともっと離れてしまう、追いつくためにできることはなんでもしよう、そういう気概でした。
今はデザイナーにはいろんなタイプがいるから僕は僕の道を進んでいけばいいとわかりましたが、当時は一本の道しかないと思っていたのです。
独立してからは、この投資マインドがさらに強くなりました。それから自分だけではなく、人にも投資する……と言ってしまうと嫌な言い方だけど、投資の先が人にも向くようになりました。
例えば編集者でWORDS代表の竹村俊助さんの会社のロゴは僕がデザインしたのですが、実はデザインフィーは発生していません。
竹村さんを知ったのは彼がダイヤモンド社から独立する少し前。精力的にnoteを更新していた時に記事を読んで知りました。竹村さんが書く文章は僕の理想のど真ん中。だから毎回noteの更新を楽しみにしていたし、記事をシェアすることもあったので、その絡みで竹村さん本人ともTwitter上で少しやりとりをすることがありました。
ある時、勇気を出して「今度東京に行く時に会いませんか?」とDMを送って会うことになりました。
竹村さんは僕が箕輪編集室でたくさんデザインしていたことを見てくれていたらしい。「箕輪編集室のデザインの門番は前田さん。それが箕輪編集室の躍進につながっている」とまで言ってくれました。「この先独立したら僕のデザインの門番にもなってもらえませんか?」と声をかけていただきました。
あえて仕事を無料で受ける理由
僕はデザイナーとして言葉の力をもっと鍛えたいと常々思っているからか、いい編集者さんへの憧れがある。だからこそ、こんな風に声をかけてもらえたこと自体が光栄で嬉しかったし、無料でもやりたいと思ったから、本当にロゴデザイン自体は無料で受けました。
竹村さんからは「本当に無料で大丈夫ですか?」ってかなり遠慮されてしまったけれど、「大丈夫です」と言って受けました。
その代わり……と言ってはなんですが、ロゴデザインのやりとりはTwitter上で公開しながら進めさせてもらいました。それから、ロゴデザインの作り方をテーマに竹村さんと対談をして、僕のコミュニティメンバーで記事にさせてもらいました。
そんな風に制作過程からオープンにしていたこともあって、このロゴのツイートも対談記事もとにかく拡散されました。そして竹村さんが売れっ子編集者ということもあって、WORDSの名刺はあらゆるところで配られたらしく、僕の憧れの人、水野学さんの手にもわたることになりました。
フリーランスになって痛感したのは「知ってもらうことの大切さ」です。
デザインに自信があっても僕を知って僕にデザインを依頼したい人がいないと成立しません。だから、認知されることってものすごい価値があるんです。僕がデザインし、Twitterや記事で自由に宣伝しながら制作過程を出させてもらう。
そう考えれば、「創業したばかりだから10万円でデザインしますね」みたいな感じで、微妙にビジネスライクでやるより、無料で受けて、いい仕事をして次への関係性が続く方が僕にははるかに価値があると感じられます。
竹村さんの場合は、実際そうなっていて、次回以降は仕事として会社のホームページも制作させてもらいましたから。
よくフリーランスの人で「無料の仕事は絶対受けるな」と言う人がいるし、言わんとしていることはわかります。
ただ僕の場合は、一緒に仕事をしたい人に頼ってもらう、仲間になるための手段として無料で受けるのはアリだと考えます。
無料無料と何回も書いているけれど、先ほども書いたように知られることの価値として大きく還元されているから、僕としてはむしろ得しているくらいなのです。
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