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イタリア男子は「世界一かっこいいマザコン」である #5 男子観察録

ハドリアヌス帝、空海から、スティーブ・ジョブス、チェ・ゲバラ、十八代目・中村勘三郎、山下達郎、はたまた「母をたずねて三千里」のマルコ少年や、ノッポさんまで……。大ベストセラー『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家、ヤマザキマリさんの『男子観察録』は、古今東西の男たちを観察し、分析し倒した「新・男性論」。ヤマザキさん独自の目線から浮き彫りになる、真の男らしさとは、男の魅力とは? 中身を少しだけご紹介します!

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地域によって異なるイタリア男子

私はイタリアに暮らしているが、自分の周りには日本の小洒落たメンズ雑誌で見かけるような、男の色気を毛穴という毛穴から放出させ、頭は女性への思いで飽和状態、という人は一人もいない。私の家族に至っては夫も素肌にシャツなんてあり得ないし、踝丈のパンツで素足に革靴もない。

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©ヤマザキマリ/幻冬舎

イタリア男子は地域や環境によってその種類も千差万別であり、北部と南部では見事に見た目も性質も違ってくる。古代からギリシャ、フェニキア、エジプトなど多様な先進文明国家の交易が盛んだった地中海のど真ん中に突き出したこの半島の、どこにどんな人種がやってきたのかによって発生した地域的特色は、そのまま現代のイタリアにもはっきりと継承されている。

例えばかつてはギリシャの巨大植民地とされ、のちにイスラム文化の多大な影響を受けた南イタリアには、骨格もそれほど大きくはなく、肌の色も濃い男性が多い。髪の毛は黒く、瞳の色もダーク系だ。

その後ノルマン王朝がおかれたりブルボン家の統治下におかれていたシチリアやナポリでは、遥かな昔の遺伝子を引き継いで透き通るような青い目にブロンドヘアーの人にも稀に出会うが、やはり骨格は小さく、肌も褐色だったりする。

それに比べて北イタリアは、南部とは違ってユーラシア大陸北部からの民族移動によって混血化が著しかった地域なので、ゲルマン系のDNAを感じさせる背も高くがっしりとした体軀の人が増え、金髪碧眼率もぐっと高くなる

私の夫はヴェネツィア近辺の血筋だけでできている人間だが、髪の色も明るく碧眼で背も高い。シチリア島へ旅をした時はどの店に入っても英語で話しかけられていた。

とはいえ、どこの州や街に育とうが、多くのイタリア人には昔から東西南北様々な血が混ざっているので、見た目だけでは地域性の特色は断定できない。決定的なのはやはりメンタリティの差異だろう。未だにオーソドックスなマチスモ意識を持つ人が多い南イタリア男子に比べて、北イタリア男子は家庭でも社会でも女性上位の姿勢の人が目立つ。

北イタリアの男性が南イタリアへ旅をすると「ああ、南部の女性ってなんて女性的で慎ましやかなんだろう……」と溜息を漏らしてしまうくらい、北イタリアの女性は強いのだ。

共通している「マンマとの愛の結束」

北イタリア男子は全般的に情動性を抑制している人が多いし、南イタリア男子のように自分に対しても決して甘くない。私の知っているナポリ男は、ふられたばかりの涙ぐんだ自分の顔を鏡に映していつまでも見つめていたが、北イタリア男子でそんなことをする人は多分誰もいないだろう。

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私の見解だが、ボローニャ以北のイタリア男子達が「あいつって、いい奴だよな」というシンパシーを示す同性は、だいたい知性があり、理性的で冷静な判断力を持ち、虚勢を張らず、だけど一緒に笑って飲んで楽しめる人である。

北イタリア男子には気の弱さとプライドが共生し、自らの中に芽生える悩みもストレスも真っ向から受け止めこそはするが、放棄はしない。彼らの持ち前の真面目さが放棄させないのだ。世界中の人人が妄想しているイタリア男のように、美しくグラマラスな女性や美味しい食べ物が悩みの解決になるとはほとんど思っていない。だから彼らにはどこか独特の憂いがある

そう考えると、私たち日本女性にとって北イタリア男子は、南イタリア男子のようなエキゾティックさはないけれども、どこか親しみ易さを覚える存在とも言えるだろう。

ただ、忘れてはいけないことをここでひとつ。北だろうと南だろうと、イタリア男子達に絶対共通しているもの、それはマンマとの普遍的な愛の結束だ

北イタリア男子がどんなにクールでメランコリックな魅力を放っていても、彼らの背景にはそんな息子を全身全霊で包み込むマンマの存在があることを、自分こそが息子にとって世界で一番の女性だと確信している彼女達の存在があることを、どうぞくれぐれもお忘れなく……。

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『男子観察録』ヤマザキマリ

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