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西村京太郎と山村美紗…その「深い関係」 #3 京都に女王と呼ばれた作家がいた

「ミステリの女王」として君臨したベストセラー作家、山村美紗。しかしその華やかさの陰には、「文学賞を獲りたい」という強烈な劣等感を抱いていたこと、公然の秘密と噂された作家・西村京太郎との関係、隠された夫の存在など、秘められた謎は多い……。

そんな文壇のタブーに挑んだ、花房観音さんのノンフィクション『京都に女王と呼ばれた作家がいた』。気になる中身を一部、ご紹介します。

*  *  *

山村美紗から届いた手紙


自信が持てないまま、書き続けていたとき、京都の女性からファンレターが届いたのは、夏の終わりだった。

「西村さんの本を買って読みました。素敵な内容でした。これからも、がんばってください」という簡単なものだったが、京太郎は、すぐ、礼状を書くことにして、住所と名前を見ると、そこにはゴム印で押された住所と、名前と、電話番号があった。
 
名前は、山村美紗
 
葉書には、追伸として「学校の夏休みには、レンタカーを借りて、北海道を一周して来ました」と、書いてあったので、女子大生だと京太郎は思い込む。字が綺麗だから、美人に違いないと考えると、心が弾んだ。
 
そしていてもたってもいられず、会いに行こうと決めて新幹線で京都に向かい、葉書にあった電話番号に連絡した。
 
電話の向こうの女性は、戸惑っているようだったが、会うことを承知してくれ、「女子大生のファン」を待つ京太郎の胸はますます高鳴った。
 
待ち合わせは、京都駅の時計台の前だった。
 
現在の、ホテルや駅ビルが連なる京都駅は四代目にあたるが、当時はもっとこぢんまりした三代目の駅舎だった。ふたりが待ち合わせした時計台も、今はもう無い。
 
一九六四年(昭和三九)に東海道新幹線が開通し、京都駅の目の前にある京都タワーもできたばかりだった。
 
そこで、京太郎は、ファンレターをくれた女子大生を待っていた。
 
けれど目の前に現れたのは、花柄の傘を差した着物姿の女性だった。美人ではあるが、女子大生ではない、三十歳は超えている様子だ。
 
戸惑う様子の京太郎に、美紗は勘違いをすぐに見ぬいて「女子大生だと思っていたでしょ。がっかりさせてごめんなさい」と笑う。
 
自分の期待を見ぬかれ照れ臭くはあったけれど、京太郎は美紗に強く惹かれていった。
 
その後、「同志」として日本の出版業界に君臨するふたりのベストセラー作家は、このような「勘違い」から交流が始まった。

消えることのない「想い」


この頃は、まだ京太郎は美紗が人妻だというのを知らなかった。

「学校が休みで北海道に行った」というのを、京太郎は「当時彼女は教師だったから、勤めていた中学校が休みということだ」と思っていたが、実際のところは美紗は既に退職をしており、「学校が休み」というのは、娘の紅葉の学校が休みだから家族旅行に北海道に行っていたのだった。
 
また京太郎は「僕と出会ったあとから、彼女は作家を目指し始めた」と書いているが、前述したように、それよりもっと前から美紗は江戸川乱歩賞の応募を続けている。京太郎が本当にそう信じているとしたら、美紗はあくまで自分は純粋な「ファン」であると装いたかったのだろうか。
 
京太郎と美紗の出会いの時期だが、京太郎が「彼女は三十一歳か二歳だった」とインタビューなどで答えているところから、一九六五年か、一九六六年あたりであろう。
 
一九六五年(昭和四〇)は、京太郎が第十一回江戸川乱歩賞を受賞し、美紗が『歪んだ階段』で予選通過をした年だ。
 
当然ながら、自分が応募して落選した賞の受賞者の名前を美紗が知らないはずがない。
 
この頃に出会ったとすると、のちに京太郎がインタビュー等で「山村美紗さんとの付き合いは三十年」と答えているのと一致する。
 
いちミステリーファンとして、美紗は京太郎にファンレターを送ったことになっているが、当時美紗は江戸川乱歩賞への投稿を繰り返し、本気でミステリー作家を目指す、作家志望者であった。
 
美紗は京太郎の作品を読んだとき、「この人は『買い』」と、彼が今後、伸びる作家である予感がした。
 
きっと、このあと、彼は売れて有名になる――そう思って、ファンレターを出した。
 
けれど、まさか京太郎自身が、京都まで会いに来ることは予想していなかっただろう。
 
生涯、一緒に戦っていく同志になることも。
 
美紗に惹かれた京太郎は、のちに江戸川乱歩賞のパーティなどで顔を合わす機会もあり、好意を隠さずプロポーズするが、美紗は応えない。なんでだめなのだと聞いて初めて、「だって私、結婚してるもの」と言われた
 
パーティで振袖を着ているから、すっかり独身だと思い込んでいたのだ。
 
どうしてもっと早く言ってくれないのだと追及すると、「そういうのは察するものでしょ」と軽くかわされてしまうが、人妻だからといって、美紗への想いが消えることはなかった。

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京都に女王と呼ばれた作家がいた


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