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保守になるか、リベラルになるかは「言語的知能」の高さで決まる? #5 スピリチュアルズ

人間の行動はすべて、あなたの知らない無意識(スピリチュアル)が決定している……。これを聞いて、驚く人も多いでしょう。ベストセラー『言ってはいけない』や『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などで知られる橘玲さんの近刊『スピリチュアルズ――「わたし」の謎』は、脳科学や心理学の最新知見をもとに、自分とは、社会とは、人類とは何かについて迫った意欲作。読みごたえたっぷりの本書から、一部をご紹介します。

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なぜ非行少年は女性を恐れるのか

医療少年院の勤務経験がある児童精神科医・宮口幸治さんの『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)がベストセラーになったのは、みんながなんとなく気づいていたこと(非行には知能の問題が関係しているのではないか)をたった1枚の図(円を三等分することすらできない)で“見える化”したからだろう。

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『ケーキの切れない非行少年たち』では、幼児に強制わいせつをする性非行少年が「女の子は8歳までしか興味ない。9歳を超えると怖い」と語る。

ペドフィリア(小児性愛障害)の特徴として言語的知能が低いことは欧米や日本の研究でも示されており、カトリックの司祭がペドフィリアで告発されるようなケースもあるとはいえ、性非行少年が思春期になって幼い女の子に性的な関心を抱くのは、同世代の女の子と対等な関係をつくれないからのようだ。

「怖い」というのは、自分にとって脅威になるということだ。身体的には明らかに優位なのに、なぜ女の子が「脅威」なのだろうか?

誰もが身に覚えがあるだろうが、子ども時代に悪ふざけをしたとき、大人は「なんでそんなことしたの?」と訊く。この問いに即座に納得のいく返事ができた子どもは許され、うまく説明できず口ごもってしまう子どもは罰せられる

大人は子どもを道徳的に「教育」しようとしているのではなく、その行動を理解するための説明を求めている。なぜなら、理解できないものは不安だから。

同様に子ども同士でも、「なんでそんなことするの?」という問いは頻繁に発せられる。その批判をうまくかわせた子どもは仲間に加えられ、説明責任を果たせないと排除される。これは男女の関係でも同じで、女の子からの問いや批判に的確に応答できない男の子は相手にされなくなるだろう。

保守になる子、リベラルになる子

こうした経験を子どもの頃から繰り返していると、言語運用能力の高い子どもは見知らぬひととの出会いを恐れなくなり(怒られても言い返せるから)、口下手な子どもは親族や友人の狭い交友関係から出ようとしなくなるだろう(自分の行動を説明する必要がないから)。

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こうして、言語的知能の高い子どもは新奇性(新しい体験)に興味をもつようになるし、低い子どもは新奇性を恐れるようになる。これは、「経験への開放性」の定義(新奇性への志向)とも一致するし、政治的な「リベラル/保守」の定義にも重なる。

――アメリカでは、リベラルは東部のニューヨークやボストン、西海岸のサンフランシスコやロサンゼルスといった多様性のある刺激的な都市を好み、トランプ支持の保守派はラストベルト(錆びついた工業地帯)と呼ばれる中西部のうらぶれた故郷から出ようとしない。

言語運用能力が低いと世界を脅威と感じるようになり、その脅威から身を守ろうとすることが「移民排斥」や「国民ファースト」のような内集団バイアスにつながる

それに対して言語運用能力が高いと、ほとんどのことは脅威にならない(適当に言い抜けられる)から、外国人や性的少数者など、自分とはちがうひとたちとの交友を楽しむようになる。

このようにして、「リベラルは好奇心旺盛で知能が高い」「保守派は伝統にこだわり知能が低い」というステレオタイプが生まれる。

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スピリチュアルズ――「わたし」の謎 橘玲

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