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恋する殺人者 #5

高文と最初に会った日のことを私は覚えている。

まるで昨日のことのように鮮明に。っていうか、忘れるはずがないって。

高文は、教室の隅で声をかけてくれた。手にカメラを持っていた。

「あ、初めて会うね。僕、沢木高文です」

口下手な高文らしく、口ごもりながらの挨拶だった。

でも、強烈な印象だった。思い出補正がかかってるせいもあるけど、あの時の高文の姿はもう映画のワンシーンみたいに決まってたね。スクリーンにどアップでどーんみたいなさ。しゃがかかっちゃったりして。そんな感じ。

背が高い人だなって思って、顔を見て、それで運命感じたわけよ。もうがびーんってね。直感がびりびりっと走って、その時の私は目がハート形になっていたと思う、多分。あ、これダメだってくらっときた時にはもう遅い。一瞬で、この人が私の運命の半身だって確信しちゃったわけ。

そう、その瞬間、私は恋に落ちていた。

それからはもう一時も頭を離れないのよ。高文のことばっか考えてる。

ああ、高文。

おお、高文。

どうしてあなたは高文なの。

なんてね。

四六時中、高文のことで頭がいっぱい。高文のことを考えると胸がきゅんきゅん痛くなる。ため息なんかついちゃったりして。

まるで恋する乙女みたいじゃん、私。

や、まあ実際そうなんだけどさ。

自分のことじゃなけりゃ笑っちゃうね。お前は恋に恋する中学生かっつうの。二十一にもなってさ。もう好きで好きで好きで、我慢できない。好きで好きで好きで愛してる。うひゃあ、恥ずかしい。バカみたいだ、私。

しかし、何だろうね、この気持ち。

お金持ちの御曹子ってわけでもなければ、何か飛び抜けた才能があるんでもない。世間の人から見たら、どっちかっていうと目立たない、っていうか有り体にいえば地味な大学生でしかないわけじゃん、高文って。

それでもさ、私にとってはそんなことどうでもいいのだよ。

高文はスペシャル。最高にカッコいい。至高の存在。完全無欠のいい男。ホントにもう、なんでそんなに素敵なのよ。困っちゃうじゃないの、この色男め。

あ、でも一つだけ不満がないわけでもないんだよね。それは、私のこと名前で呼んでくれないこと。もう、ちゃんと呼べよ。照れてるのかよ。照れてるところもかわいいんだけどさ。うへへへへ。高文かわいいよお。

いや、それはそうと、ちょっとマジメな話。困ったことになった。

あの件を高文が掘り返そうとしている。

せっかく警察が事故で片付けようとしてくれているのに。

高文ったら、余計なことしようとするんだから。

参ったなあ。マズいんだよねえ、蒸し返されるのは。

ヤバい方向に行かないように、しっかり見張ってないといけない。

だって高文にバレたら大変だもの、私が真帆子さんを殺したことを──。

◇  ◇  ◇

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