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日野原先生、人生で一番悲しかったことはなんですか?

2017年7月、105歳の天寿をまっとうした、聖路加国際病院名誉院長・日野原重明先生。『生きていくあなたへ 』は、日野原先生が遺した最後の一冊です。死ぬことは怖くないのか? 人生で一番悲しかったことは? なぜいつまでも若く元気なのか? 誰もが気になる悩みや疑問に、やさしく答えた本書から、先生の「ラストメッセージ」を抜粋してお届けします。

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質問「これまでの人生でいちばん悲しかったことは何ですか?」

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笑われるかもしれませんが、僕が人生でいちばん悲しくて泣いたのは、旧制第三高等学校、理科甲類に落ちたことです。甲類はいわゆる医学部進学コースです。

僕が7歳のとき、母が危篤になり、その晩安永謙逸先生というクリスチャンドクターが母を看るために来てくれました。

それが僕が人生の中で、本当の意味で必死に祈った初めての体験です。死を前にしたイエスがゲッセマネの園で、汗が血のように流れるほど必死で祈った、というくだりが聖書にありますが、僕もまさに7歳で同じ経験をしました。

ただそのときに、今考えれば不思議ですが、「お母さんを助けてください」と祈ったわけではないのです。「どうか神様、母を救おうとしてくださっているこの安永先生を助けてください」と祈ったのです。

安永先生の祈り、そして僕の祈りを神様が聞き届けてくださったのでしょう。母は命を取り留め、その後僕と人生をともにすることができました。僕が医師を目指そうと決心したのはあのときです。

その医学部に入るための志望のコースを外したわけですから、悔しくて悲しくて……。一夜を枕がぐっしょりと濡れるほど泣き明かしました。

ところが合格発表を見てくれた先輩の何かの間違いで、実は僕は合格していたのです。そのことが翌日知らされたときの嬉しさは人生で最高のものでした。

悲しみと喜びは表裏一体

この経験から、僕は一つのことを学びます。

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悲しみと喜びというのは、コインの表裏のようにくっついている

それにしても、一晩中泣き続けたことで、自分がこんなにも医学部に入りたかったのかとしみじみ思い知りました。

夜が暗ければ暗いほど、朝の光が眩しい。

冬が寒いほど、春の優しさが身にしみます。

人生には、つらく悲しい出来事や、思い通りにならないことがたくさんあります。むしろそのほうが多いかもしれません。

泣きたくなったそんなときは、その気持ちに素直になって、思う存分泣くことが大切なのです。泣いて、泣いて、自分の中の悲しみや悔しさと向き合えば、その先には必ず、本当の、よき訪れが待っています。

本気で泣いた経験のある人はまた、人の痛みを知ることができます。傷ついている人にただ寄り添ったり、励ましの言葉をかけたり、そんな慈愛の心が育まれるのです。人に優しくできる人は、きっと人からも優しくされるでしょう。

僕の人生でいちばん悲しかった経験は、心の中の大切な場所で、今も僕に微笑みかけているのです。


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