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なぜトム・クルーズは「読字障害」を乗り越えて世界的スターになれたのか? #4 発達障害と呼ばないで

ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)など、「発達障害」と診断される人が急増しています。しかし、精神科医の岡田尊司先生によれば、実際には「愛着障害」であるケースが多く見られるといいます。「愛着障害」とは一体なんなのか? 有効な対処法はあるのか? 著書『発達障害と呼ばないで』から、一部を抜粋します。

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ハンディの代償しての「特別な才能」

『トップガン』や『レインマン』『ミッション・インポッシブル』などのヒット作で知られる世界的スターのトム・クルーズも、子どもの頃から視覚空間型の特性を示し、いわゆる勉強では苦労した人である。彼には読字障害があり、小学生の頃は特別支援教育を受けたこともある

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トム・クルーズの父親は、ゼネラル・エレクトリックの電気技師で、レーザー技術の開発に携わっていた。技術者にありがちなことだが、あまり社交的でなく口下手な人であった。

一方、母親は愛情深く、楽天的で、三番目に生まれた初めての息子を、とても可愛がった。息子とタイプが似て演劇が好きで、直感や行動力に優れていたが、息子と同じ読字障害があったと言われている

トムは幼い頃から、イタズラ好きで無鉄砲な特性を現し始めた。まだ三、四歳のとき、ベッドのシーツをパラシュート代わりに屋根からダイビングして、あやうく死にかけたこともあった。小さい頃から物真似が得意で、家族を笑わせたという。

だが、天真爛漫だったトムの苦難が始まるのは、小学校に上がってからである。読み書きがうまく習得できないという壁にぶつかったのである。

教科書を読むように言われるたびに、彼は恥辱的な思いを味わったと、後に回想している。読字障害をもつ誰もが経験する思いである。うまく文字を読むことができないときの気持ちを、彼はこう述べている。

「頭が真っ白になって、焦りや不安や嫌気や欲求不満や、ぼくはバカなんだという思いが湧いてくる。腹も立ったよ。勉強してると、嘘じゃなく本当に脚が痛くなってくるんだ。頭痛もした。小学校から大学まで、それに仕事をしはじめてからも、ずっと自分には人にいえない秘密があると感じていた

(『トム・クルーズ 非公認伝記』小浜杳訳)

彼は字がうまく読めなかったことで、他の生徒からからかわれ、イジメを受けることもあった。自分がわかっていないことをごまかすために、ふざけたり、教師に反抗したりもした。このタイプの子どもには起きがちなことだ。

一向に覚えることができないトムに手荒なことをする教師もいたが、多くの教師はトムに対してとても適切なかかわり方をした。特別支援専門の教師が、読み書き、綴り字、算数の特別授業をしてくれ、母親にも家庭でのサポートの仕方をアドバイスした。

中でも重要なアドバイスは、「自信を持たせるため、スポーツ、演劇、美術など非学術的な分野で才能を伸ばすよう勧められた」ことだった。

そのアドバイスに従って、トムは演劇部に入り、そこで早速素晴らしい才能を発揮し始めた。台本を覚えるときは教師に読んでもらって暗記したが、文字がすらすら読めないというだけで、読んでもらえればトムは素早くセリフを覚えることができた。

苦手なことより「得意なこと」を伸ばす

ハイスクールの頃の成績は中くらいで、学習障害があったことに誰も気づかないくらいだった。完全に克服してはいなかったにしても、周囲に気づかれずにやりおおせる演技力を彼は身につけていた。

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ハイスクールに入るとトムは、レスリングを始めそれに熱中する。だが、これからというときに靭帯を切るケガをしてしまい試合にも出られなくなる。しかし、そのケガが彼の運命を変えることになる

ハイスクールのミュージカルのオーディションを受けてみないかと友人に勧められたのだ。トムは運命の呼びかけに応えて、オーディションを受ける。彼の演技力は群を抜いていた。主役に抜擢されたトムは、まさに水を得た魚だった。そのステージを見つめるプロのエージェントがいた。

実は、そのハイスクールには、すでにデビューした女優がいて、その女優が妹を見てもらおうとエージェントを呼んでいたのだ。だが、エージェントの眼鏡にかなったのはトムの方だった。そこからトム・クルーズの俳優としての輝かしいキャリアが始まることになる

読字障害や書字障害がある人は、それに気づかれないように大変な気苦労と労力を払って生活している。

「眼鏡を忘れた」とか「手を傷めている」といった理由をつけて、うまく読み書きできないことをごまかしながらも、内心は冷や汗をかいていることもあるし、領収書を書くといった作業ができないために、販売や接客の仕事を避けねばならないケースもある。トム・クルーズも例外ではなかった。

だが、そうしたハンディは、代償的に他の人にはない能力を育む。学究的でない面で自信をもてることに取り組ませるというアドバイスは、このタイプの能力を伸ばす上で、まことに的を射たものだと言えるだろう。

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発達障害と呼ばないで

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