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素直なメロンクリームソーダ 後編
意味不明な鮮やかな色彩でもって、網膜を攻撃してくる。
甘味料ならではの甘ったるそうな液体の上に、さらに白砂糖まみれのバニラアイスを加えて、どうにも逃げ場がない食べ物だと思う。
昔ながらの喫茶店だけあってコーヒーだけでも固定客がつきそうなほど、しみじみとうまい。
「葉山ってさ」
「おう」
「やさしい目するよね」
メロンソーダを堪能する鹿嶋をめでている、とでも言いたげだ。
彼女は言うだけ言うと、出るよ、と伝票を手に立ち上がる。
***
いつものように割り勘で、いつものようにせまい通路を通り抜け、帰りに稲荷神社に寄って境内でキスをする。
「吉井くんに葉山とどういう関係かって聞かれて」
「ほう」
「肉体関係って言っといた」
頭痛がした気がして、葉山曜は一瞬目を閉じた。
目を開けたら彼女が消えているのがパターンなのに、今日はちがっていた。
「なんでいんの」
「やっぱり忘れてほしくないから、勇気出してみた」
喫茶店で食事をすると、決まって鹿嶋が欲しくなり夜に家に連れて帰る。
ところが、朝になると彼女は必ず「ゆうべのこと忘れて」と懇願してくる。
言われたとおり、忘れてしまう。
そんな能力、なんの役に立つというのだろう。
しかも、これは特定の人物にか作用しない。ある感情を抱いた相手だけだ。
「メロンクリームソーダ、今度注文してみたら?」
「なんで」
「だって葉山はメロンクリームソーダ飲みたいから、わたしとキスするわけだし」
よくわからない理論に戸惑っていると、母親に禁じられていたことを思い出した。
***
添加物を毛嫌いしている人で、中学生になるまで葉山はカップヌードルすら食べたことがなかった。
いかにも人工着色料てんこ盛りの(今はどうだか知らないが)緑色の代物を、母親は親の仇のように憎んでいた。
その言いつけを、これまで素直に守っていたということか。
他の女がそれを飲んでいても、こうはならない。
憑き物が落ちた気がしてそのまま伝えると、なんか背中がむずがゆいと鹿嶋はほざく。
「鹿嶋」
「ん?」
「残業すんなよ、今日」
「オマエもな」
これも、お決まりのやりとり。飽きもせず、バカなふたりだ。
「おいしーよー?メロンクリームソーダ」
はにかんで笑う彼女が実は炭酸が苦手なことを、ずっと前から知っていた気がする。
いったい合計何杯飲んだのかと、今夜は詰めてみようかと思う。
(おわり)
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*23年7月に公開していた作品です
加筆・修正して再掲します
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