井上尚弥の次戦はグットマンで決定。
12月24日に有明アリーナで開催される井上尚弥VS.サム・グッドマンは武居由樹の防衛戦を含んだダブル世界戦となっている。
今回井上尚弥の対戦相手となったサム・グッドマンは本来なら井上がドヘニー戦を行った時にぶつかる予定だった相手でもある。
WBOとIBFで1位にランクしている無敗の挑戦者は、そんなドヘニー戦を「冴えない」と形容した。
スーパーバンタム級で大き過ぎる存在となった井上尚弥に挑戦していくのだから自身を奮い立たせる為に行った挑発でもあるのだろうが、ドヘニー戦が冴えないように見えたのはドヘニーと井上との間に力量の差があり過ぎたせいで、試合がほとんど成立しなくなってしまったからである。
もはやドヘニーは試合に勝って王座を奪うのではなく、生き残ることが目的となっており、防御に徹して一発のカウンターに望みを託していた状態だったので、勝負にすらなっていなかった。
そして井上のパンチで腰を痛めたドヘニーはインターバル中に試合続行不可能を示しTKO負けするという地味な結末を選択することになった。
つまりあの試合が冴えなかった原因は挑戦者であるドヘニーの戦い方にあったということだ。
恐らくそういったことも承知でグッドマンは「冴えなかった」という言葉を口にしたのではないかと思う。
その発言の真意はパフォーマンスの質に関する言及であったと後に説明しているが、対戦相手があの状態ではパフォーマンスの良し悪しもあったものじゃないだろう。
寧ろあれだけディフェンシブに戦っても井上尚弥の前では12R立っていることが出来ないという驚異的な証明がなされた試合だったのではないかと思う。
そんな井上尚弥に対して塩試合だと指摘した挑戦者グッドマンは、現在19戦19勝と全ての試合に勝利しており、チャンピオンレベルの技量を持ち合わせていることを証明している。
ただ、KOによる勝利は8つと少なめで、ハードパンチャーというよりも上手さで試合をコントロールし対戦相手をドミネートして行くことに長けているボクサーのようだ。
対する井上尚弥は28戦28勝25KOと、上手さと破壊力を持ち合わせている。
そんな井上に対してグッドマンは12Rを通して塩試合にならないパフォーマンスを見せていくことは出来るのか。
そのためにはネリのように打ち合った上で生き残り、果敢に勝負を仕掛け続けて行くことが必要になる。
井上尚弥を前にして12Rの全てで上手くやることは出来ないと思うので、どこかで彼と向かい合わなければいけなくなるだろう。
コントロールの効かない怪物を前にした時に挑戦者のグッドマンがどれだけ勇敢な姿を見せることが出来るのか、試合の盛り上がりはそこに掛かっていると言っても過言ではないかもしれない。
研究と超越
いくら井上尚弥と言えど、これだけ世界戦を繰り返し様々な戦いを見せていれば、それなりに手の内や癖といった要素を知られることにはなってしまう。
その影響で、あれだけ大きな王者の力もその全貌が徐々に把握されつつあり、それに伴い「分からない」という恐怖が段々と薄れ始めてくるようになる。
これは強者が高みに到達していく過程で生じる一種の流れなのではないかと思う。
つまりそれだけ後ろの挑戦者たちは有利になってくる可能性があるということだ。
だから当然グッドマンにはチャンスがある。
その上で、これまでに展開されてきた井上尚弥に対する攻略手段を参考にしながら、新たな角度で井上攻略を試みることが出来るというアドバンテージを活かしていくことが可能になる。
グッドマンが予想外のカードとしてどんな戦術を準備してくるかで試合の内容や状況も大きく変わってくるだろう。
ただ井上尚弥は常に過去の自分を超えることに全力を注ぎ、絶え間ない自分との戦いを繰り返すことで王者でありながら「停滞しない」という強みを生み出している。
なので、塩試合とならないようにグッドマンがしっかりと応戦することが出来れば、井上尚弥の仕上がりをちゃんと目にすることが出来るかもしれない。
一つ気になるのは井上尚弥が持つ「試合に勝つ上での美学」のようなものが、どこかで井上自身を不自由にしてしまわないかという点。
そこを上手く利用してポイント面での焦りを誘発できれば、グッドマンは試合の流れを自分の方へと引き込むことが出来るかもしれない。
しかしそこまで上手くことが運ぶのかという大きな疑問もそこには付随している。
果たして無敗の挑戦者を迎えた防衛戦はどういった結末を迎えるのか。
上手さが光るグッドマンに対して堅実で圧倒的なボクシングを見せる井上尚弥の強さと厚みを今回は見てみたい。