「考える技術、書く技術」を読んだ感想とこれから読む方へのアドバイス

バーバラ・ミント著「考える技術、書く技術」は1995年に発売されてより、マッキンゼーなどの名だたるコンサル会社にその理論が採用され、業界のデファクトスタンダードの地位を確立している。
しかし、Amazonのレビューで高評価を獲得する一方で、その詳細を見ると、多くの評価者が口を揃えて述べている苦言がある。
読みにくい
ということだ。
翻訳のせいなのか、原文がそのようになっているのかは分からないが、直訳に近い文章から推測するに、原文も同じように読みにくい可能性が高い。
『考えを整理しやすくし、読み手に伝わりやすくするための本』が読みにくいなどあってはならないだろう。『そも著者が実践出来ていない理論は本当に使えるのだろうか?』そのような疑念を読み手に抱かせてしまうからだ。
では、この本は読むべきなのだろうか?
私は読むべきと考える。しかし、読み方は工夫するべきだ。
なお、ここでは山崎康司氏訳の『考える技術、書く技術』を読んだ結果としての感想を述べている。


何故読むべきなのか?

そも著者が実践出来ていない理論が書かれた本を何故薦めるのだろうか。
それは以下のように高く評価するべき点があると考えているからだ。

理論自体は優れている

言葉のとおりだ。客観的にも本理論はコンサル業界のデファクトスタンダードの一つとなっており、私自身、今までなんとなくうまく出来ていないと思っていた考え方のダメな点に気づき、整理出来た経験などを踏まえると、この理論は優れている。

他の本では得られない重要な情報がある

「導入部の書き方」や「状況、複雑化、疑問」などの情報は、この本のエッセンスを整理して分かりやすくした他の本には書かれていないことがある。しかし、原著を読んで実践してみた経験や、他の方のレビューから、この考え方は凄く重要なので是非理解するべきだと考える。

他者の主観が混じっていない

原著が読みにくいから、分かりやすく解説した他の本をあたったとする。このとき、原著を分かりやすく再構成するために、脱落や改変が起こり、著者が言いたかったことが上手く伝わらない文章となることもある。原著にあたれば、意図せずそのような事態となることを防げる。
※ちなみに既に翻訳が挟まっているだろ、という突っ込みはナシで…原文を読むほど気力と英語力がない…そのうち原文も分かりにくいのか確かめるために読みます。

ではどう読むか?

『考える技術、書く技術』が読むべきに値するという私の主張が分かっていただけたところで、『でも、どう読んだらいいんだよ?』という疑問が浮かぶと思う。
この本が読みにくい原因は『本来のロジックを見失う冗長な文章』にある。
例を取ろう。以下の文章は、同じ粒度のメッセージを整理する方法として、『時間の順序』の説明を終えたあと、『構造の順序』へと移ろうとしている文章である。
『さて、時間の順序とは、すでに存在するひとつの構造に対して用いられるものです。したがって、ステップの数とそのつながりは、前提となる構造自体によって規定されることになります。それでは次に、構造の順序について考えてみることにしましょう』
分かるだろうか。構造、構造と述べた後で構造の順序、という言葉を出されることで、まるで時間の順序の前提として構造の順序があるような印象を受け、混乱する。この本にはこのような文章が数多く出てくる。
この文章に惑わされて本で示されたロジックの繋がりを見失わないようにするには、以下のように読むと良い。

目次を道標とする

幸いなことに、目次についてはシンプルな文章で整理されている。以下のような目次があるとする。
====================
第5章:演繹法と帰納法はどう違うのか?
 演繹的理由づけ
  その仕組みは?
  いつ使うべき?
 帰納的理由づけ
  その仕組みは?
  どう違うのか?
====================
当たり前のことではあるが、一段下の題目は、一段上の題目の詳細について述べる内容になっている。だから、一段上の題目について述べたいがために、この文章がある、ということを意識して読めば迷うことは少ないだろう。もし迷ってしまったら、一度目次に戻り、今どの題目について述べたいがためにこの文章が書かれているのがを再確認すればよい。

例は飛ばす

この本の例は設定内容が難しい。しかも、多くの時間をかけて理解して、そのうえで著者が示した改善例を見ても、どのようなプロセスを経てその結果になるのか、納得がいかないことがある。
これは非常に読む気力を奪う。ただでさえ文章を理解するために頭が猛回転しているのにこれではたった1章で投げ出したくなるだろう。
なので、
『例を見てみよう』
これに類するキーワードが出てきたら、その例は飛ばして次に行っていい。
本の理論を実践で用いるのも馴染んできて、暇な時間があるなら、改めて本を開き、パズルを解くように難解な例にじっくり挑むのもありだろう。

身近な出来事に適用しながら読む

この本で述べられている理論は汎用性が高く、すぐに実践可能だ。だから。読んだ端から身近な例に適用しながら読み進むと『次は?何をしたらいい?』『言われている通りにやっても上手くいかないんだが、著者の言っていることを正しく理解できているだろうか?』というような疑問が湧いてきて、それに自分なりに本から引用して回答を提示できると更に理解が進む。物書きをしている人は、次回構想にこの理論を当てはめてみると、書くべき物語がよりハッキリしてくるかもしれない。

おわりに

バーバラ・ミント著「考える技術、書く技術」を読んだ感想と、私が被った悲劇を鑑み、それでも読むべきと思う理由と、効率的にエッセンスを獲得できる方法を示してみました。未来にこの本を読む方がイライラすることなく、気持ちよくアハ体験を得られることを願うばかりです。

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