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さよならタロー


犬は初めての相手が自分より格下だと思うと、相手の上に乗ろうとするらしい・・

そうやって自分の優位性を相手に認めさせるのだと・・

それは人間に対しても同じ行動を取る。

嫁さんが初めて家に来たときも、タローは飛び掛って上に乗ろうとした。

別に敵意を持ってそうしたのではなく、ただの順位付けである。

「俺のほうがこの家では古いんだぞ!! 偉いんだぞ!!」と言いたかったのだろう。

でも飛び掛かられたほうはビックリする。

嫁さんは大騒ぎをして、俺はタローを思いっきり怒った。

タローは尻尾をおなかの下に丸めて、「失敗した」という顔をして俺をチラチラ横目で見ていた。

上の娘が初めてタローに近づいた時も(3才くらいか・・!?)、やはり飛び掛かって上に乗ろうとした。

懲りないヤツである。

俺もそういうことを知ったのはずっと後のことなので、そのときもタローをひどく怒った。

あいつは本当に気のいい犬だったので、悪意を持ってそんなことをする訳がなかったのである。

ミーコ(ネコ)が死んでから数年は タローも老犬ながら元気だった。

でも永遠に生き続けることは出来ない。

タローにも その時は近づいていた。

餌も食べられないようになり、犬小屋から出てくるのもつらそうになってきたのである。

日を追うごとに 目に見えて弱っていくのが分かった。

家族のみんなは 代わる代わるタローを撫でた。

俺も仕事が終わると 毎日30分ぐらいタローを撫でてやった。

自分の手の指紋が無くなるのではないかと思うほど撫でた。

撫でていると、タローは気持ち良さそうな顔をする。
(少なくとも 俺にはそう見えた)

俺は体を撫でながら、「頑張れ!!頑張れ!!」とタローを励ました。

犬小屋の外に出てこれなくなる前に、犬小屋の中に古い座布団や毛布を敷きつめた。

少しでもタローが楽に寝れるようにと・・


そういうことが1週間続いた。

俺はその日の夜もタローを撫でながら、タローと話をしていた。

「嫁さんや上の娘に お前が乗ろうとしたときに怒ったのは 俺が悪かったな・・。お前は悪気は無かったんだよな・・」とか ひとりでブツブツしゃべっていた。

タローは辛そうな顔だったが、俺を見ていた。


その時 タローの目から涙がこぼれた。

確かに涙がこぼれ落ちた。


俺はハッとした。

タローに「頑張れ!頑張れ!」と励ますのは酷なのではないかと・・

タローは痛みをこらえる為にだけ 生きているのではないかと・・


「タロー お前はイッパイ頑張った。もう頑張らなくてもいいよ!!」

その日はそう言いながら タローを撫でた。


次の日の朝 タローは犬小屋の中で冷たくなっていた。

タローは 俺とオヤジの家のあいだの犬小屋があったところに埋められた。

数年前に埋められたミーコ(ネコ)の脇であった。


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