河田怜

古い汽車、その絵や模型が好きです。拙文にご共感頂ける読者があれば、一言を頂けたら嬉しい…

河田怜

古い汽車、その絵や模型が好きです。拙文にご共感頂ける読者があれば、一言を頂けたら嬉しいです。

最近の記事

ヸタ・フミガンス、わが煙歴 ―80歳が待ち遠しい!―

酒と煙草はいけません、とその医師は言った。 煙草はとうにやめているので、重ねてやめることはもはやできない。 他日、研修医の眼鏡女子が、どれくらいの期間吸っていたか、一日何本くらい吸っていたかと「喫煙歴」を根掘り葉掘り、糺した。 おそらく医学の知見を深める上で、必要な聞き取りなのだろう。 ガールフレンドから、以前にはどんな娘と付き合っていたの、と追及されたようで可笑しかった。 喫煙は文化なのだから、量ではなく質をこそ問うべきだ、という考えを私は持っている。 それはさておくに

    • 幻列車 準急スワン

      軸配置C―Cの電気機関車。 フランス国鉄ではこのタイプに、いくたりもの名車が生まれました。 1955年に世界最速時速331キロを記録したCC7100しかり、3電源区間を駆け抜けたTEE用CC40100しかり。 日本のC―Cは山岳線用のEF62一形式に留まりましたが(事実上は試作機か?)、私はこの軸配置に高性能機の幻を見てしまいます。 そこで模型の世界では、長距離夜行急行の間を縫って走る、東海道線東京口の夜間準急として、EF62の仕業を差し込むことにしました。 BL小説のパイオ

      • 夜に駆ける ―森茉莉「恋人たちの森」の準急‘スワン’―

        あんな綺麗な男の子は見たことがなかった。 私よりふたつ、みっつ若いくらい。 壮年の美丈夫に、いつもまるでペットのように纏わりついて準急「スワン」に乗りこんでくる。 私はAホテルで国鉄の列車食堂を担当するウエイトレスだ。 乗務予定表に「スワン」が組み込まれていると、職場の仲間たちは、またあの美少年に会えるかも、と小さな期待に胸をふくらませる。 少年の名前はまだ知らない。 彼がパトロンらしい美丈夫を「ギ」とか「ギド」と呼ぶのを耳に挟んで以来、私たちはギド様のお稚児さん、と呼ん

        • 真夏、夜汽車で ー急行「長州」のことー

          昭和40年代盛夏のある日、夜を徹して東京から走り続けた臨時急行「長州」は、午前11時前に山陽本線糸崎駅に着いた。 小学生だった私は、足取り軽くホームに降り立った。 列車には修学旅行用の電車が充当され、4人掛けボックス席には窓側から細長い鉄板製のテーブル展べることができる造りになっていた。 冷房はなく、天井には国鉄の略号である「JNR」のマークを付けた扇風機が回り、窓は開け放ったまま夜を駆けた。 私の席の向かいには若いサラリーマンが腰かけ、金属製の小瓶に入れたウイスキーを、時折

        ヸタ・フミガンス、わが煙歴 ―80歳が待ち遠しい!―

          真夏、夜汽車で ー急行「安芸」のことー

          #昭和#国鉄#夜汽車#C59#C62#呉線#広島県#急行安芸 呉市に住む親戚を訪ねて、寝台急行「安芸」にひとり乗ったのは10歳の夏休みだった。 列車は台風に出くわし、本来ならば所要15時間半のところを20時間かけてやっと東京から呉にたどり着いた。 途中、徐行しつつ、あるいは一時停止しつつ、目に入る東海道線、山陽線沿線のそこかしこで、古い家屋の屋根瓦が、台風のつむじに合わせて同じ向きの角ばかりが崩れているのを見た。 いわゆるSLブームの頃、「安芸」は呉線内で蒸気機関車が牽引

          真夏、夜汽車で ー急行「安芸」のことー

          風呂場の子供たち

          豚児は二人。上が女、下が男である。 幼児の頃には、二人まとめて私が入浴させるのが常であった。 上の子がそろそろ小学校に上がる時分だったろうか、風呂場で、6・3・3・4年の学制を教え聞かせたことがあった。 中学までは誰でも必ず通わねばならない。でもその後は自分次第だよ。 下の子はすぐさま反応し、姉に「あすかちゃん、中学校で止めよう」と提案した。 しかし姉は「やだ、わたし高校にいく。だって偉くなりたいもの」と退けた。 フランソワーズ・アルディに「アン・ドゥ・トロワ・シャ」という

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          新幹線を聴いている

          おんなの部屋のインタフォンを押した。 薄曇りの空は明るさを留めてはいるが、どちらが西やら東やらおよそ見当がつかない。 訪ねて来るのは、いつも夜ばかりだったから。 昼間の勤めを持つおんなが、こんな時間に留守なのは分かっている。 近くに所用ができ、ほんのついでにぼんやり歩いているうちに、足がつい通い慣れた道をなぞり、部屋の前にたどり着き、指先が勝手に目の前のボタンを押してしまったのだ。 ポケットに合鍵はあるが、おんなの体がなければ部屋なぞに用はない。 なにか書きつけを残そうかと思

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          父の呑気な友人O氏の噺

          1:就活始末 あいつは真面目なのか不真面目なのか分からない。 髪型が世界史教科書のフランシスコ・ザビエルの肖像画に似ている高校の担任教師は、父の同級生O氏をそう評したのだそうだ。 なんでも古本屋の棚差しの文庫本から、読みたい短編のページだけを引き裂いて元の棚に戻したらしいと噂は伝えたが、確証はない。 ビールくらい飲んでみせたい年頃の昭和のガキどものことだ。 根も葉もない偽悪的な作り話がひとり歩きしたのかも知れない。 父は、欲しかったグラビア一枚を目当てに買った古雑誌を、家に持

          父の呑気な友人O氏の噺