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単眼境って最強


首から下げている小さな筒は何?

 美術館に行くと、5センチほどの小さな筒状の黒い物を首からぶら下げている方に出会うことがある。時折、手にしては片目に当てて絵を熱心に鑑賞している。
「なんだろう、あれ。よく見えるのかな。企画展の入り口で貸し出しなどしていたのかしら。見落としたかな」
などと思っていたのだが、よく見ると人によって形状やメーカーが微妙に異っているようなので、個人の持ち物らしい。
 観終わった後、念のため再度企画展の入り口付に行って確認してみたのだが、貸し出ししているようなスペースはなかった。やはり、個人で持参しているようだ。

その正体は単眼境

 帰宅後、さっそくインターネットで調べてみると、それは「単眼境」なるものだとわかった。しかも、細かな絵のタッチなどを見る事ができるからと、最近では美術館に持っていく人も多いようだ。
 念には念をと、よく行く美術館のサイトをいくつかチェックしてみた。見た限りでは、いずれも使用を禁止している旨の記載はなかった。その後、どの美術館だったか失念してしまったのだが、1か所だけ単眼境の貸し出しを行っていたところもあった。(ミュージアムショップでオリジナルデザインの単眼境を販売している所もある)
 ということは、美術館側でも歓迎しているようだ。考えてみれば、立ち入り禁止エリアのギリギリまで近寄り、バランスをくずさんばかりに身を乗り出して熱心に鑑賞されるよりは、単眼境を用いて余裕を持った場所から、きちんと立った姿勢で鑑賞してもらったほうが、美術館にとっても鑑賞者にとっても良いということだろう。

さっそく単眼境を入手

 とはいえ、これまで肉眼で鑑賞していて不自由を感じたことはない。単眼境など不要かなとも思ったのだが、ものは試し。評判が良くて比較的安価なものを購入してみた。
 少しばかり目立つ色だったこともあり、最初は気恥ずかしかったのだが、せっかく購入したのだしと首から下げてとある西洋画の企画展へ。事前に記載がないか調べていったとはいえ、入り口で「持ち込み不可ですよ」などと係の人に言われたら恥ずかしいなぁとドキドキしていたのだが、何も言われることなく無事(?)に入場。
 持って行ったはいいものの、最初はどこを単眼境で見ればよいかわからない。とりあえず絵の前に立ち、しばし肉眼で眺めたあと、人がいなそうなタイミングを見計らって、いざ目に当ててみる。
「ふむ…」
 正直、よくわからない。たしかに筆遣いなどはよく見えるのだが、肉眼で見えていたのとさほど変わらない。驚くほどの感動を味わうことはできなかった。こちらの見方が悪いのだろうか。フォーカスする場所が違っているのだろうか。

浮世絵にばっちり!

 その後も、西洋画展では、あって良かったような、無くてもいいような、という状態が続いていたのだが、太田記念美術館(東京都渋谷区)へ浮世絵を観に行ったときに、単眼境の威力を初めて感じることができた。
 浮世絵の細い髪の毛一本、一本までが良く見える。着物の細かい絵柄や、山間や遠くにいる人物などまでが、「こんなに細かく描きこまれていたのか」と感動するほどに、よく見える。これはいい!
 最近、浮世絵にはまっていたのだが、余計にはまるきっかけとなった。細かい部分までよく描きこまれた線。着物の細かいところにまで塗られた色。特に髪の毛の生え際などは、際立っている。そしてその線を忠実に表現すべく彫師や、摺師の技を垣間見ることができる。

小さくても大活躍!

 西洋画にもおそらく単眼境を通してみる良さがあるのだろうが、個人的には浮世絵を観る際に、非常におすすめである。時間を忘れてレンズを通して鑑賞することができる。時に肉眼で全体を観ることを忘れそうになるほどに、熱中してしまう。
 単眼境は小さく、どこのメーカーのものも6~7センチ程度、重さも50~60グラム前後のものが多いようだ。首から下げていても、さほど気にならない。単眼境のレンズに、ガラスケースに映り込む光を軽減するレンズも別で売っており、こちらも購入した為か、ストレスなく鑑賞できている。
 さほど期待もせずに購入した単眼境だが、なかなかどうして、大活躍である。神社仏閣など、少し離れた場所にある彫刻などを観る際に適した倍率などもあるようだから、次はそちらも購入してみようか。さらに鑑賞の幅を広げてくれるかもしれない。

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