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さんまさんからの数年越しのアハ体験

私は自分で案外記憶力がいいタイプじゃないかと思っている。

だけど知識などを覚えている意味記憶ではなくてエピソード記憶の方、自分に起こった事をよく覚えている。
疑問に思ったことは特に覚えている事が多い。

今から数年ほど前、何の番組だったかも覚えてないが麻木久仁子さんが出ていて彼女の新人時代のエピソードを再現VTRで流していた。

確かこんな内容だった。
彼女はある大物司会者のアシスタントとして番組に出ることになった。
初日に緊張しながらその大物司会者に挨拶しに行った。

「麻木久仁子です!頑張ります!今日からよろしくお願いします。」
頭を下げながらそう言ったのだが、その大物司会者は

チラッとこっちを見ただけで何も言ってくれなかった。

それから頑張って収録したが終わっても話もしてくれなければ目も合わせてくれない。
その大物司会者は結局ずっとそんな調子で、麻木さんも仲良くなろうと努力したようだが上手くいかないまま日々は過ぎて行った。

ある日の収録中に大物司会者が麻木さんに言った。

「麻木さん緑似合いますね~。」
麻木さんはその日緑の衣装を着ていたので誉められたことが嬉しかった。
嬉しい!誉められた。そう思った瞬間
「そんなに緑似合うのあなたとカエルぐらいなもんですよ!」

そう言われた時のことを麻木さんはこう語った。
「今ならわかるんですよ!それが面白いって。今ならわかるんですけど、当時は全然わからなくて…やったぁ、誉められた!って思った瞬間にゴンッて来たもんですから、もう涙こらえるの必死で…」

結局その番組自体が終了してしまうまでの間、麻木さんはその司会者と打ち解けることは出来なかった。

それからしばらく経って、自分がMCを務めている番組にその大物司会者がゲストで来ることになった。

彼女は以前の体験から怖くなってきた。
あの人が来る…上手くできるんだろうか、出来なかったらどうしよう…。
一種のトラウマだった。
だけど、そんな不安ばかりの中、何とかMCをこなした。

するとその大物司会者は帰り際
「麻木、お前ウマなったな!」
そう言ったそうだ。

「もう、本当に嬉しくて嬉しくて涙が出ました。」
麻木さんはそう振り返る。

そのVTRが終わってスタジオにカメラが切り替わった時「大物司会者」として名前が伏せられてた人物を大竹まことさんがあっさりバラした。

「それ、さんまだろ?」

ズバリ的中、スタジオは爆笑、もちろんそこにさんまさんはいない。
麻木さんはカメラに向かって
「あの時はお世話になりました。さんまさん!ありがとうございました。」
バラされると思ってなかったのか少し焦った感じでそう言った。

この番組を見ていて私は少し驚いた。
芸能人はそりゃカメラが回ってないところでは別の顔を持ってるだろうけど、さんまさんが新人に対してそんな対応するとは思わなかったからだ。

これはわたしのイメージだけどさんまさんは屈託なく誰とでも話す感じがするので、「仕事」として厳しくするにしてもコミュニケーションは取りそうなのにな…、目も合わさない、話もしないなんて意外だなぁと思った。

それにしてもどうしてそんな対応するんだろ?話をしない事でどんな効果が生まれるんだろう?一緒に仕事するなら話した方がいいと思うけどな、と少し疑問が残った。

私はこれを見た時から数年間、この記憶がずっと残っていたのだが、最近見た番組でその疑問が少し解けた気がした。

それは「誰も知らない明石家さんま第9弾」という番組だ。

この番組でさんまさんは「オレたちひょうきん族」でのビートたけしさんとのエピソードを語っていた。

先輩のたけしさんとコントをすることになったさんまさん。
たけしさんは「たけちゃんマン」さんまさんは「ブラックデビル」として一緒にすることになった。

初めて共演するときにさんまさんはたけしさんに挨拶をしに行った。
「明石家さんまです!よろしくお願いします。」
たけしさんは台本を見たまま
「よろしく。」
さんまさんの方を一瞥もせずにそう言った。
「ぼく、たけしさんと共演出来るの本当に楽しみで昨日から一睡もできてないんですよ!」
そう言っても何も反応がない。

さんまさんは「おれの事どう思ってるんだろう?」と不安になったが仕事をこなした。
コントが終わっても話もしてくれないし、目も合わせてくれない。
さんまさんはたけしさんに認められたい一心でとにかく頑張った。

すると、直接の会話こそなかったがレギュラーに指名してくれたり、ギャラを上げてくれるなど、たけしさんはさんまさんを認めてくれるようになっていった。

この番組を見て「あぁ、なるほど」と思った。
数年越しのアハ体験のようだった。

たけしさんにやられた事は、さんまさんが麻木さんにしたことと全く同じだ。

ここからは私の考えだけど、たけしさんが自分にしてくれた事が良いとさんまさんは思ったのではないか。
その方が新人は「認められたい!」と思って頑張ると思ったからそうしたんじゃないのかなと思った。麻木さんに頑張ってほしかったから。
かつての自分がそうだったから。

このやり方が全て通用するかというとそうではないと思う。
逆にやる気をなくしたり、鬱になったり、自暴自棄になったり、そういう風になってしまう人もいるだろう。
麻木さんが本当はどう思ったかは真意は分からないが、さんまさんは自分の経験を通して「良かった」と思った方法を取ったんだろうと思う。

みんなそれぞれ、やり方を持っている。
経験したことがみんな違うんだから導き出される真実も人それぞれ違う。
結局信じられるものがあるとするならば自分自身の経験なんだろうなと改めて思った。

だから自分が経験した事、感じたことには素直に自信を持っていたい。
ただ、やられた事を何も考えないでそのまま相手にするのはどうかと思う。きちんと一考してから相手に繋げていきたい。
良いと思ったんなら後輩に繋いでいくだろうし、ダメだと思ったんならそういうことはしない。
そうありたいなと思った。



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