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異形者達の備忘録-22

捻挫

私は中学生、駅ビルのお蕎麦屋さんでアルバイトしている。もう2年になる、帰りは夜の10時を回ってしまうがそれもすっかり慣れてしまった。

その日はバイト中からお腹の調子が悪くて、帰る途中で我慢できずに神社のお手洗いを使用した。いつも暗いのに、明るい電気がついているし、中も綺麗で、花まで飾ってある。スッキリして外に止めた自転車に向かった。

すると神社の向かい側の空き地に、救急車が止まっている。夜遅いので消音にして、赤色灯だけが回転している。奥にパトカーまで居る。横には、空のストレッチャーが、準備されたままだ。あれに乗ったら帰って来ないんだ。自分の親がそうだったから、ツイそんな考えが頭をよぎる。動けなくなって見ていた。やがて、救急隊員が、ストレッチャーを押して建物の中へ入った。ブルーシートに包まれ、固定された多分人 が出て来たので、あぁ、ご遺体なんだなと思ったら、「いやあー!お父さん! お父さーん」と叫んで、女性が飛び出して来た。私は涙が出て来てしまった。その時背後から、ドンッとぶつかられて、振り向くと手に刃物を持った男が、トイレから飛び出して来た。反射的に自転車をぶん投げていた。グゲッと変な声を出して、下敷きになった男の手から、刃物が飛んだので、自転車の上に立って、思い切りジャンプしてやった。何回もやった。だって、ブルーシートの中から、行けぇー!踏み潰せって、何度も泣きながら怒鳴るから、幻聴でも、何でも、止まらなかった。警官の「アッ 居たぞー 確保―」と言う声と、泣いていた女性にギュッと抱き止められて、ガクガクしながら抱き合って大泣きしたよ、その夜のうちに、警察からあの男はストーカーで、たまたま訪ねた父親を、勘違いして滅多刺しにしたんだって聞いて、また震えた。

結局軽い捻挫をして、1日だけ 学校とバイトを、始めてお休みしちゃった。

夜明け前の時刻だと言うのに、お蕎麦屋夫婦と、向かいのマンションの老夫婦がすっ飛んできたのにはびくりした。

泣いていたお姉さんとゆっくり話したけど、お姉さんのお母さんは、体が動かなくなる難病で、10年ぐらい前に亡くなっているんだって、今は別に暮らしているお父さんが、久しぶりに亡くなったお母さんの夢を見て、娘の所に飛んで来たんだって、その時に、刃物を持って潜んでいたストーカーと戦ってくれたの、その夢っていうのがね、お母さんが、「ネエ洋一さん、貴方が伸ばしてくれた電気の紐、また届かなくなっちゃった、」って言うんだって、生前この電話をよく受けていたお父さんは、いつも 何もかも放り出して帰っていたんだって、だからお前のSOSだって思ったんだって、お父さんはそう言って亡くなったんだって、お姉さんはいつまでも泣いていた。

理不尽だ。湿布でぐるぐる巻になった左足を見ながら、お見舞いにもらった唐揚げ弁当と、ホールケーキを食べながら、今すごーく憤っている。理不尽だ!

こんなんで、世の中良い分けが無い!!


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