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【読書感想】美術の愉しみ方/山梨俊夫

 中公新書から出版されている『美術の愉しみ方』
 美術への入り口として、関心を開く・好きを見つける・読む・比べる・敷居をまたぐ・参加する・判る判らない・の七つの視点を語る。
それに加え、80点のカラー図版とともに読み進められるためとてもわかりやすい。

 私は美術について何も知らない。しかし興味はあったため、この本を手に取った。原田マハの小説でしか美術に触れる機会はなかったことから、専門的な知識を学ぶということに一歩踏み出せずにいたが、この本は様々な視点から美術の面白さを教えてくれた。とっかかりをくれたのである。

 絵画だけではなく写真や、「社会関与型美術」なども多く取り上げられており、美術のジャンルさえも分からなかった私にとっては新しい発見が多かった。
 特に写真の美術性に対して今まで気が付かなかったことを学ぶことができた。写真は誰にでも撮れるという印象が強く、美術作品として絵画などに比べるとそこまですごくはないのでは、、?と思っていた。もちろん大間違いであった。写真は紛れもない事実を映しているということを忘れていた。どれだけ自身の生活からかけ離れている写真であっても、必ず世界のどこかで実際の起こった事柄なのだ。そして撮った1秒後には過去となっていて今はもうない儚いものだ。
 絵画のように作者のオリジナリティをそのまま感じ取ることは難しく感じるが、数多い世界の事象・物体の中で「なぜこれをカメラに収めたのか」。
この点に作者のオリジナリティや個性が大きく感じ取れるのだと気が付いた。

 また、第7章「判る判らない」では、判るとは心の探索なのだということ。小説でも美術でも同じように、自分の心について考えるきっかけになるということに気が付いた。
そして、良し悪しなどの自分の中の基準は揺れ動いてもいいということ。安定してしまうことはかえって自分の許容範囲を狭めてしまい、出会うはずの魅力を見逃してしまうことになりかねない。そのため、自分の基準を行ったり来たりして、さまざまな作品に自らの基準を揺れ動かさせることで、不安定を愉しむのである。

 不安定を愉しむ。この言葉のおかげでとても可能性を広げられた気がする。自分の中の中心軸がゆるぎないものであるほど人は強いと思っていた。だが、ゆったりと構えて自分の軸にすがることなく世界に順応できる人間になりたいと改められた。柔軟さをもって美術に対することで新しい貌に出会うことができる。自らの姿勢こそが美術と自分をつなげるための大きな準備となるのだと気が付いた。

 この本からは書ききれないほどのことを学んだ。美術初心者だった私にはすべてが学びだった。細かく読み返して知識をもっと得たい。
 美術館に行きたい。自分の心を思いっきり動かして思考を巡らせてみたい。好きなものにそんなに熱心になれることはとても幸せだろうなと想像できる。大人になったら自分だけの絵画や写真も買ってみたい。やってみたいことや行きたいところが久しぶりにできた。
 新書にはまっている。また他のものも読んでみよう。私にとっての読書は、思考を巡らせて自分の感じ方に素直になれるとても重要なものだ。そして新しい世界と出会わせてくれるもの。今回の美術との出会いをきっかけに、もっと私の心に新たな価値観を植え付けてくれるものと出会いたい。

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