マガジンのカバー画像

小説 月に背いて

15
運営しているクリエイター

2024年6月の記事一覧

小説 月に背いて 3

小説 月に背いて 3

 私が高校3年生になったばかりの5月、父親が亡くなった。勤務中にくも膜下出血で突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。もともと血圧が高いのを放置し、無理して働いていたのが災いしたのだろう。

 忌引で1週間学校を休んだあと、疲れ果てて空っぽになった頭でのろのろと登校した日、放課後佐田先生に呼び出された。化学準備室は北校舎一階の一番奥にあり、日当たりが悪く、いかにも研究室という感じの薄暗い部屋だ。

 

もっとみる
小説 月に背いて 12

小説 月に背いて 12

 井川くんと神社へ行った翌週、佐田先生が車の衝突事故にあった。一時停止をせずに優先道路に進入してきた車に助手席側から衝突されたようだ。車は廃車となるほど損壊したが、彼自身は軽い打ち身だけで済んだ。私はそれから全く事故を目撃しなくなった。

 しばらく会わないようにしようと先生に伝えなければならない。そうしないとさらに悪いことが起こるという予感が頭に纏わりついた。とりあえず今は会うのをやめよう。次に

もっとみる