フォローしませんか?
シェア
渡邉有
2023年8月19日 15:41
女には影がなかった。それは陽の光で出来る影ではない。月光で出来る影のことである。「私は明日死ぬ」と女は言った。「何故」と僕は言った。 女の長い睫毛に縁取られた黒い眸から涙が落ちた。女が泣くのを見るのはもうたくさんだと思った。 川のほとりを歩き続けた僕達は、葦が生い茂る川のふちで足を止め蒼白く輝く月を眺めた。果ての町には沢山の火が灯っていた。僕は生まれ変ったらあそこに帰りたいと思った。